日本の政治は与野党が党勢拡大のために宗教団体の支持獲得を争い、ねじれ国会のキャスティングボートは創価学会を支持母体とする公明党が握っている。この国の権力を左右する宗教と政治のパワーバランスは、政権交代と激動する社会情勢によって、いま大きく変わろうとしている―。
時として創価学会以上の宗教パワーを発揮し、政治を動かすのが新宗連(財団法人・新日本宗教団体連合会)という団体だ。
新宗連は、その名が示すとおり教団の連合体である。第2次大戦中に当局の宗教弾圧を受けた経験を持つ教団などが「信教の自由」と「政教分離」を掲げて1953年に設立した連絡組織で、立正佼成会(約409万人)、PL教団(約98万人)、崇教真光(約80万人)、円応教(約46万人)をはじめ70教団が加盟し、現在の信者総数は公称1200万人にのぼる。
創価学会が公明党を結成して政界で勢力を伸ばした1960年代から政教一致問題を厳しく批判し、以後、半世紀近くにわたって「反創価学会の宗教団体の砦」として学会側と対立してきた。設立当初に加盟していた世界救世教、生長の家、真如苑などはその後、教団の分派問題などで脱会したが、信者の規模からいっても創価学会(公称827万世帯)に匹敵する組織といえる。
創価学会と新宗連との宗教戦争の天王山が昨年の総選挙だった。
新宗連はそれまで自公連立を批判しつつも、加盟教団は歴史的に自民党議員とのパイプが太く、選挙では自民、民主に“二股”をかけてきた。しかし、10年間に及んだ自公連立で創価学会の政権への影響力が強まっていくことに危機感を募らせ、総選挙では一挙に政権交代へと動いたのである。新宗連幹部が振り返る。
「新宗連としては総選挙でどの党の候補にも正式な推薦は出していない。だが、立正佼成会はじめ加盟教団の多くは政権交代の機運に乗って、『公明党を落とせ』と手弁当で民主候補の支援に動き、学会組織が強いといわれた太田昭宏・公明党前代表の東京12区、北側一雄・前幹事長の大阪16区など、小選挙区の公明党候補を全員落選させた。かつてない熱気でした」
政権交代が実現すると、新宗連は民主党一党支持を一層鮮明にする。今年7月の参院選は比例代表で藤末健三氏、白真勲氏、喜納昌吉氏という民主党の3人だけを推薦。選挙区でも、立正佼成会が大阪の尾立源幸氏と東京の蓮舫氏の支援に力を入れ、崇教真光は大阪で岡部まり氏を応援した。
しかし、参院選で民主党は大敗し、喜納氏や岡部氏は落選する。
新宗連幹部が語る。
「選挙活動といっても、新宗連は創価学会のような組織的なやりかたはしない。公明党を野党にするという目的は達成できたし、菅首相の消費税増税発言に対する批判ムードも強かった。だから参院選への取り組みは冷めていた」
創価学会が信者組織を固めるための手段として選挙活動を重視しているのに比べ、教義も教主も異なる教団の連絡組織である新宗連には、参院選にそこまで深入りする理由がなかった。1200万もの宗教票が“眠った”のは、「政教分離」の原則からいえば健全だったかもしれない。
だが、そのパワーが再び発揮されたのが、9月の民主党代表選だった。菅首相―仙谷官房長官コンビが新宗連を「自民党との戦い」ではなく、党内抗争にフルに利用したのである。
※週刊ポスト2010年11月26日・12月3日号