飢餓の国・北朝鮮で丸々と太った3代目の坊ちゃん権力者が登場した。他でもない、金正日総書記の三男、金正恩氏だ。だが、産経新聞ソウル支局長の黒田勝弘氏は、この権力者登場に親北家の多い韓国社会も冷ややかだと指摘する。
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今から10年前、当時の金大中大統領と金正日総書記の南北首脳会談が初めて行なわれた時、韓国ではちょっとした「金正日ブーム」が起きた。脳卒中で倒れる前だったから彼も元気だった。
その詳しい様子がテレビを通じ初めて韓国の国民に紹介され、モノ珍しさもあってちょっとした人気を呼んだ。「キムジョンイル・キャラクター」みたいなものまで登場した。 あれは史上初の南北首脳会談、あるいは金大中・親北政権下ということでの一種の「ご祝儀」現象だったか。
これに比べると今回の金正恩登場には韓国人は意外(?)に冷ややかだ。人気というにはほど遠い。親北派がバッコするネットでも盛り上がりは見られない。むしろ肥満ぶりを皮肉るなど冷やかしが多い。
平壌出身の筆者の知り合いの年寄りなど、1945年、ソ連占領軍庇護の下、33歳の金日成が平壌・牡丹峰運動場の群衆大会に初登場した時のことを思い出したという。当時、「金日成」という名前は抗日闘争の伝説的英雄の名前だったから、群衆は「あの若僧がまさか?」「ありゃ、ニセモノだ!」と思ったのだ。
今回、金正恩が金日成のソックリさんのスタイルでデビューしたため、昔を知っている年寄りは65年前の平壌での「演出」を連想したのだ。
飢餓の国で丸々と太った坊ちゃんスタイルの3代目権力者に、さすがの韓国社会もシラけたか。何でもありのネットでも「カッコいい!」の声は見当たらない。肥満は北では権威と権力の象徴として政治的効果を持つかもしれないが、韓国ではもう受けない。
※SAPIO2010年12月15日号