今年9月7日に発生した尖閣沖での中国漁船衝突は突然起こったわけではない。中国は尖閣諸島の実効支配をにらんで8月に大漁船団を送り込んでいたのだ。海洋政策に詳しい東海大学の山田吉彦教授が報告する。
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2010年8月、270隻もの大船団が尖閣諸島近海を航行している姿を海上保安庁の巡視船が発見、確認した。中国福建省から来た大漁船団である。
そして、日本の排他的経済水域内で漁を始めた。中国漁船が日本の排他的経済水域内で漁をすることは、日中漁業協定により一部認められている。しかし、そのうちの70隻が日本の領海内に侵入し漁を始めたのだ。この海域に台湾漁船が出没することは時折あるが、中国船団の出現は初めてである。
過去2008年には、尖閣諸島沿岸で領海侵犯をした台湾遊漁船と巡視船が衝突し、遊漁船が沈没する事件が起きている。この事件後、台湾において「尖閣諸島は台湾の領土」と主張する運動が激化し、抗議船が台湾の巡視船とともに領海に侵入する事件へと発展した。このため海保は、その後、領海侵犯漁船に対し慎重に対応していた。
東シナ海の尖閣諸島付近の海域は、サワラやカツオなどの漁場であり、本来の漁期は、春から夏にかけてである。例年、8月になると、台風が来襲するおそれがあり、漁船は姿を消す。すなわち、この時期に漁船が大量に出没することは不可解である。
中国は、世界の海へ出ようとする時に沖縄諸島、先島諸島などの日本の海を通過しなければならない。この海域を奪わない限り、中国の発展が阻害されると考え、尖閣諸島海域の実効支配に乗り出したのである。その第1弾が、270隻の大漁船団の出現だ。
そして、9月7日。ご存じのように領海侵犯をした中国漁船が、2隻の巡視船に体当たりをする事件が起こったのだ。
※SAPIO2010年12月15日号