他国が支配している領土を中国が実効支配した例が過去にある。それと同じ手法を尖閣諸島にも応用しようとしていると、海洋政策に詳しい東海大学の山田吉彦教授は指摘する。
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中国の海洋警備組織は海軍も含め5ある。そのひとつが、農業部漁業局で、同局所属の漁業監視船「漁政」が漁業監視、水産資源の確保を担務としている。
2010年からは、漁政の動きが特に激しい。6月、インドネシア海軍の警備艇が、南シナ海の同国が領有権を主張する海域において、許可無く漁をしている中国漁船を拿捕した。
すると、30分後に中国の漁業監視船が現われ、インドネシア側に対し「中国の管轄海域であるので、速やかに漁船を解放するように」と求めた。この漁業監視船は排水量4450トンの軍艦を改造したもので、砲身をインドネシア海軍の警備艇に向けてきたのである。
インドネシア警備艇は、歴然たる武力の差に屈服し、中国の密漁船を釈放した。この漁業監視船以外にも、さらに大型の37ミリ砲を2基持った排水量1万トン以上の監視船があると報道されている。これらの監視船の多くは海軍から供与されたもので、乗員の多くは実は海軍軍人と言われる。
この海域ではインドネシアの漁業権は侵害され、中国の漁業監視船のコントロールの下に大密漁船団が堂々と活動しているのである。そして、南シナ海の制圧に目処がついたのか、東シナ海、つまり日本の海へと矛先を向けてきた。
9月7日の尖閣沖の衝突事件の時には、周辺に160隻もの漁船が出没し、そのうち30隻が領海を侵犯していたのだ。大漁船団の役割として東シナ海における米国の潜水艦対策があると言われている。
漁船は、魚群探知機をソナー(超音波探知機)として使い、海中及び海底の状況を調べ、漁業監視船に報告する。また、270隻もの漁船が海上にいたのでは、その海域で浮上することどころか、通過することもままならないのだ。
そして、この漁民が緊急避難を名目に一斉に尖閣諸島に上陸したら島を奪われかねない。フィリピンが領有を主張していた南沙諸島のミスチーフ環礁を1995年に侵攻したのと同じ戦略である。
それを防ぐには、中国の漁民を盾にした侵攻の前に、尖閣諸島の開発を進める必要がある。まず、必要なのは、日本人が住める環境を作ることであり、周辺海域で日本人も漁を行なうことだ。日米安全保障条約の第5条は、日本の施政にある場合のみ有効であり米国の協力が得られるのである。中国が実効支配した場合は、北方四島や竹島のように同条約の対象外となるのだ。
そして、尖閣諸島の実効支配を固めないまま中国漁民に乗っ取られるような事態になれば、次は、沖縄諸島の島々が狙われることになる。さらに、好機と見たロシアや韓国もつけ込んでくるだろう。そうなれば北方領土や竹島問題も、解決どころか状況は悪化するだけである。
そのような負の連鎖に陥らないためにも、尖閣諸島は試金石となる、譲ることのできない問題なのである。
※SAPIO2010年12月15日号