尖閣事件のビデオを流出させた海保職員は陸上勤務への配置換えが行なわれ処分を待つ身だが、もう一方の主役、中国漁船の船長の行方は杳として知れない。
中国に帰った船長は一躍“英雄”扱いされ、地元の福建省泉州市から「道徳模範」の表彰まで受けた。ところがその後、彼についての情報はぱたりと途絶えた。「海外はおろか、中国メディアでさえ接触は禁じられている」(中国のメディア関係者)というのだ。船長はどんな人物なのか、どんな意図で衝突事件を起こしたのか。
地元の漁民や運転手に話を聞くと、船長と軍との関係を一様に否定した。「関係があるのはむしろマフィア。密輸などに関わっている」(運転手)という声もあった。メディア関係者からは、「当局が船長をメディア露出させないのは、ただの飲んだくれで何をいい出すかわからないから」との噂話も聞こえてくる。船長の知人に聞くと、「彼は軍人どころか、パソコンすら使えない普通の漁民」。
船長は帰国後、事件について彼にこう語ったという。
「日本の海保の船を見たとたん、はげしい衝動が沸き起こった。愛国者の本能だ」
前出の知人は記者に、「漁民にとって、日本の巡視船は生活を邪魔する敵。生活が苦しく不満を募らせているところへ敵が現われれば、衝動的な行動を起こすこともある」と訴えた。軍人かマフィアか、それともただの飲んだくれか。船長の正体はいまだに包まれている。
※週刊ポスト2010年12月10日号