常に時代を騒がせてきた孫正義・ソフトバンク社長。最近では『龍馬伝』を見てはツイッターで興奮する様なども知られるようになったが、孫氏はいかに日本を再生しようとしているのか? 「出る杭」について聞いてみた。
* * *
――「出る杭は打たれる」といった日本の社会風土が改革を遅らせている。
米国の起業家はアメリカンドリームの体現者であり、ヒーローとして讃えられますが、日本のIT起業家は“成り金”扱いです。ホリエモン事件をきっかけに、大学を卒業した若者たちは、IT企業ではなく従来型の重厚長大産業に舞い戻ってしまった。
成熟社会のなかで調和を保つには、その方向性も正しいのでしょうが、改革の時には若い人たちのチャレンジ精神を大切にしないと。もちろんセーフティネットは必要ですが、「格差社会反対」といっていては、国力が落ち、それこそセーフティネットを維持する財源がなくなってしまう。この「日本病」は、かつてのイギリス病よりも恐ろしくて深刻です。
――(「出る杭」の代表格であるライブドア事件の際の)ホリエモンは悪くなかったと?
「ネット起業はいかがわしい」というレッテルが貼られてしまった。「若くして大金を稼ぎ、力を手に入れるのは、おかしな社会だ」と政財界もメディアもこぞってバッシングに走った。 僕は堀江(貴文)さんが正しかったか間違っていたかについて言及するほど、あの事件について詳しく知らないんです。ただ、いわゆる老舗企業が有罪になっても、あんなに騒がれることはなかったはずです。
――「日本病」に陥ってしまった原因は何か。
第一幕の農耕社会から第二幕の工業社会へ、そしていまは第三幕の高度情報社会へと世界は移行しています。日本はそこに乗り移りそこねた。いってみれば、国ごとつまずいて、成長エンジンのバトンを取り損なってしまったわけです。
80年代に日本が優位に立てたのは、電子立国によるものでした。家電やパソコンだけでなく、自動車にも電子部品がどんどん組み入れられた。エレクトロニクスに強い日本車はメカに強いドイツ車を超えて、米国を席巻した。だけど、電子部品だけでは、韓国や台湾、中国、インドにも追いつかれてきている。
※週刊ポスト2010年12月10日号