どの国でも、危機が迫れば政治家は結束するものだが、この国では、野党はここぞとばかり政府の足を引っ張り、与党は「神風だ」と喜び、官邸と自衛隊との信頼関係は崩壊している。
11月3日、埼玉県の航空自衛隊入間基地で行なわれた航空祭で、自衛隊OBなどでつくる航友会の会長(旧陸軍パイロット)が菅内閣の尖閣問題での対応などを批判し、「一刻も早く菅政権を潰して、昔の自民党政権に戻しましょう」と挨拶した。驚いた防衛省内局は、政治的発言をする部外者を自衛隊行事に参加させないように通達を出した。
どんな理由があろうとも、自衛隊は民主的に選ばれた総理大臣の指揮によって動かなければ国家秩序が成り立たない。嫌いな政権だから命令を聞かなくていいということになれば軍部の暴走につながる。自民党、大マスコミは「通達は言論弾圧だ」と大批判を展開したが、仮に中国軍基地内で軍OBが「胡錦濤は生ぬるい。日本を叩いた江沢民政権に戻せ」と演説したとすればどうだろう。「中国軍も言論の自由があって改革された」と歓迎するべきだろうか。
北朝鮮は、そうした官邸と自衛隊の溝が招いた日本の防衛能力の低下を見抜いている。自衛隊の将官経験者が指摘する。
「南北の衝突がさらにエスカレートすれば極東全体が不安定化し、在日米軍の行動も必要になる。政府は当然、米軍への後方支援や遭難した戦闘員の救助、船舶の臨検などを行なう周辺事態法の適用を視野に入れておくべきです」
そうなれば北もタダではすまない。しかし、今の官邸と自衛隊ではそんな行動は取れないと見ているからこそ、北は動いた。
※週刊ポスト2010年12月10日号