11月12日、北朝鮮のウラン濃縮施設が公開され、菅首相や前原外相が憤りの声を上げた。しかし22日に来日したボスワース氏は、菅首相や前原外相が憤りの発言をしたのとは裏腹に、「深刻にとらえているが、危機だと騒ぎ立てる性質のものではない」と、あたかも“この程度は仕方ない”という発言をしている。米国防総省筋がその真意を語る。
「ホワイトハウスが見ているのは北朝鮮の核ではなく、その後ろにいる中国の存在だ。核施設公開が中国政府の了解を得て行なわれたのは間違いない。“北朝鮮の核をコントロールしているのは我々だ”というメッセージにほかならない」
同様の構図が延坪島交戦に見えると指摘するのは 元陸上自衛隊陸将補の矢野義昭氏だ。
「延坪島は韓国と北朝鮮の制海権の要衝であると同時に、中国の山東半島と遼東半島の目と鼻の先にある。いずれも中国海軍の重要拠点であり、ここで戦闘が勃発しようものなら、大連や青島、さらには天津といった渤海、黄海沿岸の大都市への影響は避けられないから、中国のゴーサインがなければ砲撃は無理でしょう。むしろ、中国の意向を受けたものである可能性が極めて高い」
本誌が接触したホワイトハウス高官が驚くべき情報を明かした。
「今回の公開に先立って、北朝鮮は米国に対して非公式に、“在韓米軍が引き揚げれば核兵器を排除してもいい”といってきていた。米国が呑めるはずもないが、そもそもこの要求は北のメリットがあまり大きいとはいえず、むしろ中国にとって重要な条件だった」
在韓米軍撤退は、中国にとって「朝鮮戦争以来60年越しの悲願」とされる。このホワイトハウス高官は、「中国が北朝鮮を動かして対米外交に揺さぶりを掛けてきた」――そう言い切った。
しかも、オバマ政権は身動きがとれない状態にある。
「延坪島交戦勃発直後に国家安全保障会議が緊急招集され、半島情勢の作戦シミュレーションを進めている。だが、議長であるオバマ大統領は、朝鮮半島問題を極東問題のトッププライオリティとは考えていない。現政権は中国が影響力を増している南シナ海の制海権を守るのに精一杯。南シナ海はマラッカ海峡やルソン海峡など、中東から原油を運ぶタンカーの最重要航路であり、米国の生命線だ。
いくら日本や韓国が悲鳴を上げようとも、朝鮮半島や尖閣が位置する東シナ海で米軍は動かない。東シナ海で中国に譲歩しても、南シナ海だけは死守したい。中国はオバマの腹の内をわかっていて外交を仕掛けてきた」(前出の国防総省筋)
居丈高に「核の恫喝には屈しない!」「日米同盟の力を見せつけろ!」と、どこかの大臣のように“2つの言葉”を繰り返す新聞・テレビの扇動報道では、背後にある米中の熾烈な覇権戦争は見えてこない。今そこにある危機は、「米中衝突の狭間で見捨てられる日本」なのである。
※週刊ポスト2010年12月10日号