米紙ウォールストリートジャーナルの記者だったパメラ・ドラッカーマンさんは、退職後、フリージャーナリストとして3年間にわたり、世界10か国12都市で実際に不倫をしている人々などを対象に調査を行なった。さらに、心理学者や性科学者への取材を重ねた。その結果、見えてきたのは、秘密事で無法のように見える不倫にも、それぞれの国で独自のルールがあること。そして、そこには地域の風土や教育のあり方、性文化が色濃く反映されているということだった。ドラッカーマンさんにアメリカのケースを教えてもらった。
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平均的にアメリカ人は17歳までに初体験をすませ、26歳ごろに結婚するまでの9年間、奔放な性生活を送ります。ところが、いざ結婚すると、プロテスタンティズムの影響で婚外セックスに対して非常に厳格になります。統計によれば過去1年以内に不倫をした経験のある人はわずか3.5%。
2006年のギャラップ世論調査では、多くの人が、不倫は一夫多婦制やクローン人間を作ることよりも道徳的に許しがたい行為だと答えています。アメリカでは不倫は社会的犯罪も同然なのです。
なぜアメリカ人が不倫についてこれほど不寛容なのかというと、正直であるべきとの意識が強いからです。不倫について「セックスすることが問題ではなく、パートナーにウソをつくことが悪い」という考え方をする世界でも珍しい国民です。だから、ひとたび不倫がバレたら、セックスの回数や体位からフェラチオの有無まで打ち明けることが夫婦関係を修復する唯一の方法になります。1998年に発覚したクリントン元大統領とモニカ・ルインスキーのスキャンダルでも、大統領はすべてをさらけだすことで解決を図ろうとしました。
しかし、不倫はいけないとのルールは厳格でもあり、すべてを打ち明けても関係修復は難しい。昨年、複数の女性との愛人疑惑が発覚したタイガー・ウッズは会見で不倫と認め、性依存症と診断されたことまで告白しましたが、夫婦関係の修復は叶いませんでした。つまり、ほとんどのケースで「不倫をしたら、結婚生活はゲームオーバー」なのです。
そんな厳しいルールの中でも不倫をする人は当然いて、あるヘッジファンドのマネージャーは子犬のような表情を浮かべて「ぼくは幸せになりたいんです」といいました。アメリカでは幸福な結婚は権利の一つと考えられているので、女性を口説くときに、妻との不仲を口にし、自らの不幸を訴えるのが常套手段です。当人の心の中では、あくまで幸福を追求しているのだという姿勢が、情事を正当化するシナリオになるわけです。
※週刊ポスト2010年12月17日号