最近、経済や外交を論じる際に「AXJ」という言葉が使われるのをよく目にする。AXJとはAsia excluding Japanの略で、直訳すれば「日本を除いたアジア」となる。
もともとは金融用語で、すでに先進国となっている日本を除いたアジア新興国を総称する言葉だった。
最近ではむしろ、「経済成長の止まった日本を除く、高成長を続けるアジア地域」という、日本にとってありがたくないニュアンスで使われることが多くなった。
国家の力を測るうえで、政治力、経済力、軍事力は切り離せない柱である。戦後日本の政治力がどれほどであったかは疑問の残るところであるが、経済力では周辺国をはるかに凌駕し、軍事力においても、堅固な日米同盟をバックに一定の力を認められてきた。
中国の台頭で経済力、軍事力で日本は追い抜かれようとしている。アメリカにはもともと軍事力でも経済力でも遠く及ばないうえ、軍事力に優るロシアが経済力もつけ始めた。
日本は今こそ政治力を磨いて大国の一角を維持しなければならないはずだが、その政治力に一番大きな不安を抱えているのだから、他の大国に付け込まれるのは当然のことだったのである。
案の定、中国は北朝鮮が韓国を砲撃したタイミングで「6か国協議を開催する」と言い出した。中国主導の展開に反発するアメリカ、日本、韓国は「まず北朝鮮が態度を改めるのが先決だ」として開催に否定的だが、オバマ政権下のアメリカも政治力では中国に押され気味である。
アメリカのあるシンクタンクの研究員はこう分析する。「アメリカは結局、中国から何らかの譲歩を引き出して協議を進めるだろう。北朝鮮と中国は利を得て、ロシアは高みの見物、アメリカと韓国は損するが、一番割を食うのは何のメリットもないのに北朝鮮支援のカネをせびられ、中国の脅威にさらされる日本だろう」
国際政治でも進む「AXJ」は、日本の国益を失わせるだけでなく、大国のパワーバランスを崩すことによって極東危機をも引き起こしているのである。
※週刊ポスト2010年12月17日号