自殺に関する報道は世界的にも自粛する方向にある。世界保健機関(WHO)は自殺の予防を目的に自殺報道ガイドラインを定めている。そのガイドラインの一部を紹介しよう。
・短期的に過剰な報道をすることを控える。
・自殺をことさら美しいものとして取り扱ったり、悲劇性を強調しない。
・自殺手段を詳細に報道しない。
・実名報道を控える。
・自殺の背後にはしばしば心の病が潜んでいるが、それに対して効果的な治療法があることを強調する。
これについて「このなかで日本のテレビ局が守っていることが一つでもあるでしょうか」と怒りをあらわにするのが、『テレビの大罪』(新潮新書)で「自殺報道が自殺をつくる」と指摘した精神科医の和田秀樹氏。確かに、テレビは遺影や遺書を映し出し、どこでどうやって自殺したかを事細かに紹介する。遺族の怒りや悲しみの言葉をそのまま流して悲劇性を高める。
「思春期の青少年の心はうつろいやすく、ふと死にたくなることはよくあること。死にたいと思っても、翌日友だちに野球に誘われたり話しかけられたりしたら、すぐに忘れてしまうのです。ところが、たまたま死にたいと思ったときにこういった自殺報道に触れると、その報道は決行を促す強いメッセージになる」(和田氏)
死にたいと考えている子供は、「みんな自分のためにこんなに悲しんでくれる」「いじめたヤツに仕返しできる」と受けとってしまうのだという。そして和田氏はこんなエピソードを語る。
「オーストリアのウィーンの地下鉄では、以前は飛び込み自殺がすごく多かったが、自殺報道を自粛したら激減したんです。一方で、自殺大国の日本では、マスコミが練炭自殺や硫化水素自殺の方法を紹介して、自殺者を増やしている。番組の司会者やコメンテーターは、軽々しく『こんな風に仲間はずれにされたら自殺して当然だ』などと同情するが、日本中には仲間はずれにされている子供は何万人もいる。そんな子供たちに『死んで当然』といっているも同然なんです。今回のような連鎖自殺では、2人目以降はテレビ局が殺したようなもの。自分たちが何をしているのかをまず知るべきです」
※週刊ポスト2010年12月17日号