日本は米国に頼らない独自防衛が可能か。日本の防衛タブーを破る初めての試算が出た。試算したのは前航空幕僚長・田母神俊雄氏。氏によれば、それは、子ども手当の3分の2の予算で可能だと言う。
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中国は現在、国産空母を建造中なので、日本も米第7艦隊の原子力空母ジョージ・ワシントンと同じ10万トン級を3隻持つ必要がある。費用は総額約6兆円。それらを尖閣諸島周辺の南方海域に1隻、本州周辺海域に1隻配備して海と空を支配すれば、大きな抑止力になる。もう1隻は訓練、整備などに使う予備である。
中国が核保有国である以上、軍事バランスをとるうえで核武装は避けて通れない。日本独自の核武装が可能になれば、その抑止力を最大限に活用するため原子力潜水艦を装備する。浮上せず長期にわたって海中で行動できる原潜に核を搭載すれば、「どこから報復の核を撃ち込まれるかわからない状態」を保てる。
日本の領海と排他的経済水域を合わせた面積は世界第6位で、この広い海を有効活用する防衛戦略である。この戦略ミサイル原子力潜水艦は、常時2隻が潜航する態勢とし、その間、1隻はドックで整備を受け、さらに予備の1隻で、計4隻あれば十分だ。ただし、護衛用の攻撃型原子力潜水艦も1隻ずつ計4隻必要なので、総費用は約7兆5000億円。
自衛隊が保有していない攻撃的兵器には、戦略爆撃機がある。上空を飛び続けて待機し、遠方から敵地に巡航ミサイルを撃ち込む爆撃機で、米軍のB-52は航続距離が1万6000キロメートルもある。
日本は「世界の警察」ではなく、地球の裏側まで飛ぶ必要はないので、航続距離6500キロメートルの輸送機C-2や8000キロメートルの対潜哨戒機P-1をベースにした機体で十分。
1機に巡航ミサイル6発を搭載し、硫黄島に10機配備する。情勢が緊迫した時に、3機が上空で待機する態勢とする。爆撃機は安上がりで総額約4600億円。
自衛隊の隊員数も増やす必要があるが、現在の隊員数のままの場合、周囲が海に囲まれている我が国の特性を考えれば陸を少し減らして海空を増員することが次善の策となろう。また我が国は水陸両用部隊である海兵隊を持たないが、離島を守るためには海兵隊が必要である。
陸自の半数くらいを海兵隊として組織してはどうか。日本には無人島が6500以上あり、今後は尖閣諸島だけでなく、そういった島々を占拠される危険があり、島嶼奪回作戦に備えた訓練が必要になる。
他にもイージス護衛艦や艦対地ミサイルなどの装備や人間を使った情報収集体制の構築などが必要と考えられる。
これらすべて含めて整備するのに必要な予算を見積もったところ、20年間で15兆2112億円と試算された。年度別に見ると、最大でも1兆4138億円(平均では約7600億円)。平成22年度の防衛関係予算は4兆6826億円なので、現在の約1・3倍に増やすだけですむのである。
一方、「子ども手当」は初年度支給総額は2兆2500億円である。つまり、その3分の2の額で、中国の領土拡大の意志をくじき、対等な外交を実現し、日本の平和を守れるのである。しかも、防衛関連業界には約6000社の中小企業がぶら下がっているので、景気対策になり、日本の技術力を高めることにもつながる。単なる票目当てのバラマキと比較して、どちらが税金の有用な使い道と言えるだろうか。
※SAPIO2010年12月15日号