不況で就職難が続く昨今、自衛隊入隊希望者が増えているという。なんでも各種資格・免許が取れるのが魅力とか。しかも、すべてタダ。10種以上の資格ホルダーもいるという。ジャーナリストの田村建雄氏がリポートする。
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退職者のための集中技能訓練とはどういうものか。陸幕監部広報室担当者はこう語る。
「退職自衛官の再就職に有利な資格・免許を取るための部内技能訓練を行なうシステムがある。3年内に退職する幹部、中堅、若い任期制自衛官で辞める人たちが対象です」
例えば仮に退職後の再就職に備えて大型特殊自動車免許を取得したいとなれば、学科も実技も3か月以内で合格できるように技能訓練をする。
大型特殊自動車免許の他、退職再就職支援の技能訓練で取る資格定番は、クレーン運転免許、フォークリフト免許、ボイラー、危険物取扱者、調理師、マンション管理士、防災管理者などがある。
自衛隊OBが語る。
「例えばすでに任務の一環でクレーン運転免許を取得していれば、そのクレーン車を公道で運転でき、仕事に連続性が持てるよう大型特殊免許を取る技能訓練を受ける」
自衛隊員として長く勤務すればするほど、あるいは曹長、准尉の中堅クラスになるほど複数の資格ホルダーになっていることが多いが、退職者用集中技能訓練でさらに資格を増やすのだという。自衛隊関係者の弁だ。
「私の知る早期退職者予定者は10個もの資格を持っている人もいる。だいたい車両関連資格が多いが、変わり種ではホームヘルパーや全身障害者ガイドヘルパーもあった。とにかく自衛隊の人たちは資格を取って取りまくる。それもこれも早期退職制度があるからだ」
確かに自衛隊の規定での若年定年制制度では2曹以下では53歳、佐官クラスでも55~56歳で退職となる。だから再就職を少しでも有利にするために多数の資格ホルダーとなるのだ。そのため、近年の介護問題を考慮してか、部隊内ホームヘルパーなどの技能訓練も設置するようになった。
ただし、この場合は任務外なので、免許取得時の受験代は個人負担となる。資格を手にした人の再就職先は運送関係、建築関係、警備会社、IT企業などだ。他にも自動車学校の指導員や消防署関連。空自で整備畑だった人は民間飛行機関連会社で製造や整備職で引く手あまただ。
こうした資格・免許取得の有利さや、退職者再就職支援の手厚さが好条件となっているのか、この数年、大卒者の自衛官応募が急増し、競争倍率は年々上昇、最近では9倍を超えるという。
中には、資格・免許だけ取得してすぐに退職してしまう者もいそうだが、隊員として実務をこなしながらの技能熟練はそれほどすぐに到達できるものでもない。何より任期1期目(約2?3年)で退職する時、陸上自衛隊では54万円、海上・航空自衛隊は90万円が支給される。
さらには前述の退職者のための集中技能訓練もある。免許の「取り逃げ」はないのが現実だ。それよりも、自衛隊に資格取得だけを求めて入隊することは本末転倒。あくまで国防のための資格、免許取得であることを忘れてはいけない。
※SAPIO2010年12月15日号