11月25日、元読売新聞論説委員の前澤猛氏が、読売新聞グループ本社・渡邉恒雄会長に対し、「虚偽の発言で名誉を傷つけられた」として慰謝料などを求めて東京地裁に提訴した。理由は、2007年10月16日の「新聞協会報」に掲載されたインタビュー記事で、渡邉氏がこう発言したことにある。
〈社論の統一は容易ではなかったという。自衛隊一つをとっても「編集局総務のころ、前任の論説委員長と激論を戦わせた。社論と反対の社説を執筆した論説委員に執筆を禁じたこともあった」と振り返る〉
前澤氏は、「執筆を禁じられた論説委員」を自分のこととしたうえで、事実は正反対と憤っているのだ。さらに氏は続ける。
「渡邉氏はもうひとつ事実を歪曲しています。『前任の論説委員長と激論を戦わせた』というのは、彼のいう『自衛隊について』ではなく、1978年の江川卓氏の巨人軍入団の件です。当時編集局総務(局長代理)だった渡邉氏は、江川氏の巨人入団契約を支持する社説を書くよう要請しましたが、論説委員会にフェアプレー精神から見て正当化できないという理由で断わられた、というのが真相です」
さらに前澤氏は続ける。「論説委員時代に会食の席で当時論説委員長だった彼に私の意見を述べたら、同席した別の論説委員から『反論しちゃダメだよ』と叱られました。彼にとって社論は自分の意見であって、反論は受け付けない。あれ以来、『渡邉持論』が『読売社論』として確立し、いまや一部の政治家と同じ感覚で、新聞社の主筆として日本を支配しているつもりなのでしょう。しかし、果たしてそれで、彼はジャーナリストといえるのでしょうか」
今年に入ってからは、日本テレビの元政治部長も大学の研究所の年報に渡邉氏を批判する論文を載せている。メディア帝国のタブーが破られはじめているのか。
※週刊ポスト2010年12月17日号