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80歳を過ぎても妻と幼児語で会話した「日本の巨魁」の素顔

【書評】『悪名の棺 笹川良一伝』(工藤美代子著/幻冬舎)1785円(税込)

 もはや伝説的存在といっていいだろう。フィクサーとして政財界を牛耳った男。「一日一善」のCMで誰もが知る有名人だった男。競艇で巨万の富を築いた男。そう、95年に96歳の生涯を閉じた、「日本の首領」こと、笹川良一である。

 天然痘やハンセン病などの患者、あるいは戦犯者とその家族、発展途上国への教育援助…私財を投じ、慈善活動にうち込みながらも、「戦後の悪の象徴」として、いまだに酷評される存在。あらゆる意味で大きな存在だ。

 本書は、著者・工藤美代子の労作である。著者はこの大きな山に、「予見なし」に、「丁寧」に、幼少期から亡くなるまで、笹川の道程を掘り起こしていく。

 浮かび上がってきたのは、巷間語られてこなかった、新しい笹川像だ。たとえばこうした台詞。

〈わしらがキミの歳にはな、毎晩食事の相手も夜の相手も替わったものだ〉

 著者は「新しい女性と事業への意欲が正比例するのが笹川の特質でもあった」と分析し、これまで誰もたどり着いていなかった「最後の愛人」の取材にも成功する。

 あるいはケチとも言える金へのスタンス。風呂水は浴槽の半分までで、ご飯のおかずはメザシ。

〈お前たちに財産を残さないという教育がオレの財産だ〉

 と息子たちに言い、実際、それを実践した。
 あるいは80歳を過ぎても妻と幼児語で会話する可愛らしさ。清濁併せて驀進する笹川の姿は、日本の戦後の成長と轍を一にする。彼は決して特殊な存在ではない。日本人の象徴なのだ。

 本書によって、笹川良一という生き様を目にした読者は、この巨魁への評価が変わるだろう。

※SAPIO2010年12月15日号

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