「上海まで4000円」(春秋航空)、「マレーシアまで5000円」(エアアジアX)など、ローコストキャリア(LCC)と呼ばれる格安航空が注目を集めている。そこで今年7月から茨城と上海を結ぶ「春秋航空」に本誌記者が体験搭乗してみた。本誌記者の体験記は以下の通りだ。
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最初の関門は公式HPから行なう「チケット予約」だった。値段はリアルタイムで変わる。往路2万6000円、復路4000円の計3万円のチケットを予約すると、燃油サーチャージなどが加算され計3万7010円となった。だが、中国語のHPゆえ、手続きに戸惑ってしまった。日本語ページもあるが、表示されるのは少し変な日本語だ。決済後に届く確認メールも〈春秋航空のチケットを注文するの 確認情報〉といった件名がつく。
ともあれフライト当日。チェックインカウンターの客は中国人ばかり。既に中国に来たような喧噪だ。そこに突然、女性客の金切り声が響く。荷物の重量制限に引っかかった様子。同航空では15キロまでという制限があり超過1キロ1500円が徴収される。顔を真っ赤にしてカウンターを叩く。すると、今回は超法規的措置が発動されたのか、オマケしてもらうことで決着が付いたようだ。客は何事もなかったかのようにゲートを通過していた。記者も飛行機に向かう。
当日はあいにく横殴りの雨。傘は荷物と一緒に預けてしまったため、飛行機まではズブ濡れで外を歩く。むくれて機内へ入ると、ピンクのチャイナ服のCAに恭しく迎えられる。頬を緩ませながら、予約した窓側の席に辿りつく。が、一難去ってまた一難。機体はかまぼこ型の形状のため、頭上に圧迫感を抱く。さらにどこを探してもリクライニングボタンがない。記者はこの姿勢で着陸まで耐えるのか、と嘆息した。一方、周囲は修学旅行のバスのように中国語が賑やかに飛び交っている。
25分遅れで上海に向けて離陸。機内がグラついた。そしてCAのアナウンス。「悪いの天気によって、飛行機は揺れているのですからシートベルトを締めてください。ありがとうございました」案内は中国語と日本語。常に文末に「ありがとうございました」が添えられる。「謝謝」を直訳しているのか。「飲食物は運賃に含まれていないのですから、いまから機内販売をいたします」記者の前に、幾度もCAが押すカートが回ってくる。「食べ物はいかがですか」“出血大サービス”といわんばかりの元気な声が機内に響いていた。
着陸1時間前。CAが突然マイクで号令をかける。
「イー、アル、サン、スー、アル、アル、サン、スー」――これが噂の“春秋体操”。乗客は「まってました」と、手を組んで伸ばしたり、げんこつをぐるぐる回したり。これでエコノミー症候群も予防できるというわけだ。日本人乗客が完全に置いてけぼりにされるなか、ひとしきり終わると最後に乗客から大きな拍手が沸いた。
そして上海浦東国際空港に定刻通りに着陸。3時間前とはうってかわり空はカラリと晴れ上がっていた。当初危惧された安全面は、まったく問題がなかったことにほっと胸をなでおろす。聞くと、格安といえども大手と同じ安全基準をクリアしており、最新機材を使うLCCも多いのだという。ただし、本誌記者の感想といえば、直角の座席、機内販売や件の体操でおちおち睡眠もとれず疲労を募らせた気もする。価格をとるか、乗り心地をとるか。まさにハムレットの心境を味わわせてくれるのがLCCだと、ここではまとめておこう。
※週刊ポスト2010年12月17日号