菅内閣が打ち出した減税案は、経済界からの票とカネがほしかっただけだ。税理士で立正大学教授の浦野広明氏の見方は厳しい。
「日本の税制は、大企業や高額資産・所得層に偏在する『租税特別措置』という優遇税制が多すぎる。合法的に税を逃れられる制度こそが根本的な問題です。それなのに財界の要求を受け入れて減税を約束し、しかもマニフェストを撤回して企業・団体献金を再開するなど許されません」
場当たり的に打ち出した政策だから、官僚に脅されて腰砕けになった。財務省幹部は愉快そうだ。
「総理にも仙谷(由人)官房長官にも、『法人税減税がしたいならどうぞ。そのかわり財源を用意してください。ただし、法人税制の中で解決してください。たばこ税など他の税金を持ってくるのはいけません』と説明している」
ほら、いつもの手だ。しかも、自民党政権時代は、「インナーは財務官僚より税に詳しい」といわれた。毎年ヘンテコな改正で制度を“増改築”し、隠語で「熱海の温泉旅館」と呼ばれるほど複雑になってしまった税制度をいじるには、最後はインナーの協力が不可欠だった。ところが今は政治家が無知だから、官僚はもっと高飛車になった。
「政治主導なのだから、どうぞ税制も政治家が決めてくださいといっている。子ども手当の財源で党と官邸がモメているが、我々は『財源を決めてくれれば手当がいくら増額できるか計算します』という立場だ。まァ、来年度の分くらいは埋蔵金をやりくりして総理に花を持たせてもいいが、ならば消費税の議論も進めてくれないと」(同前)
もし菅首相が突然「子ども手当の財源が見つかった」といったら、それは財務省の毒まんじゅうを食った証拠なのだという。すべては財務官僚に挑発されても何もできない菅政権の無能が招いた混乱なのである。
※週刊ポスト2010年12月24日号