中国との尖閣問題に続き、ロシア大統領のメドベージェフが国後島を訪問するなど、近隣諸国が一斉に日本の領土を土足で踏みにじっている。国際ジャーナリストの落合信彦氏は、日本政府の対応を見ていると、菅直人以下、この政権の人間は古代ローマの時代から伝わる「汝、平和を欲するなら、戦争に備えよ(Si vis pacem, para bellum)」というラテン語の格言の意味を、誰一人理解していないことがよくわかると言う。同氏が現政権の問題点を指摘する。
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日本の政治家に、正確な情報を有効に使える人間がいるかと問われれば、一人も思い浮かばない。これは、有権者の一人ひとりの危機意識の低さにも問題がある。
イスラエルでは、ヨム・キプル戦争(第四次中東戦争)の時、アラブ諸国の奇襲の情報を持っていたのに判断を誤り、緒戦で敗北を喫したメイア首相のような指導者は失脚を免れない。有権者は「この政治家は領土を、国民の生命と財産を守ることができるか」という基準で判断し、票を投じる。それは即ち、「情報を適切に扱える判断力を持つ人間か」が問われているということでもある。
情報は「他国に恩を売る」という使い方もできる。かつて、伝説的なモサドの元長官のイサー・ハレルは私のインタビューにこう答えている。
「モサドが(冷戦時代に)西側諸国の安全に果たした役割は、イスラエルという国のサイズに比べてはるかに大きかった。具体的には私の口からは言えないが、あなた方が考えている以上に、自由主義諸国はモサドの恩恵をこうむっていると断言できる」
補足すれば、ソ連のフルシチョフが行なった「スターリン批判」の演説をテープ録音し、CIAに渡したのはモサドの功績である。表向きはCIAの手柄となっているが、実際は違う。こういった積み重ねがあるからこそ、アメリカは常にイスラエルの支援に回ることになる。
日本はそういった努力を全くしていない。中国の“急所”を入手し、アメリカに伝える。それができていれば、問題が起きてから、「尖閣諸島は日米安保条約によって守ってもらえるんですよね?」などと慌ててクリントンに泣きつく必要もなかった。
日本の政治家はよく「戦略的互恵関係」などと口にするが、情報を持たない国が「戦略」など立てられるわけがないし、そんな日本と本気で「互恵」する関係になろうという国もない。国家の生存のために何が必要か一刻も早くそれに気付かなくてはならない。
※SAPIO2010年12月15日号