東京・羽田空港にほど近い昭和島の工業団地にある丸善機工は、ネジ製造のほか旋盤加工、金属を曲げる作業などを得意とする小さな工場だ。現在は、鉄道車両や大型自動車に用いる部品の加工を主として事業を展開しているが、従業員16人のうち、還暦を過ぎているのは68歳と69歳の2人。
同社では、65歳の定年後も正社員として雇用し続ける。過去には80歳を過ぎた職人が機械を操り、72歳の男性を新規雇用したこともあったという。
自身も87歳にして現役だという同社会長の齊藤善五郎氏は、高齢社員の働きぶりをこう評す。
「熟練工がいなければ、うちのような工場は成り立たないんですよ。たとえば、金属を真っ赤に熱して曲げる作業。最適な温度は職人の目で見極める。製品の出来は長年の勘と経験とに大きく依存する。彼らこそ戦力なんです」
リーマンショック以降、業界全体が右肩下がりになる中、今年8月の決算でV字回復を成功させた。技術と経験を持つ「オーバー60」が会社を下支えしたのだ。
北陸地方には、従業員の実に4分の1が還暦過ぎ、という会社がある。「うちの定年は60歳。でも、定年で辞める人なんて何十年に1人出るか出ないかですよ」というのは、福井市の安田蒲鉾社長・安田泰三氏。不況下ながら業績は順調で、昨年は過去最高益を記録した。
「適材適所を貫いているだけです。経理部長は71歳の地元銀行退職者ですし、IT部門などを担当しているのは都内の大手電機メーカーを定年退職した63歳の男性です」(前出・安田社長)
製造機械が故障すればメーカー出身者が修理をし、魚の買い付けは漁師経験者が担当する同社では、仕事に慣れた従業員が勤務を続けるのは当たり前のこと。
「うちは全社員が賄いの食事を共にする伝統を続けていて、家族のような一体感があります。担当以外でも忙しい部署があれれば手伝うし、年がいった社員は、それぞれ若手を育てています」
「オーバー60社員」の雇用には、給与を抑えられるなどの経営的メリットもあるが、日本企業はそれらを活用しきれていない。中国企業のなかには、定年を迎えた日本人技術者を積極的に招聘し、技術吸収を図っているところもある。
中小企業の現場に詳しい福井県立大学・中沢孝夫特任教授はこう指摘する。
「そもそも従業員のスキルは年齢で測れるものではない。年功序列や定年制度は大企業が社員間の秩序を守るために作り出したシステム。中小がマネをする必要はないのです」
※週刊ポスト2010年12月24日号