地上波テレビが「デジタル」に移行するというので、そのPRが行なわれている。この「地デジ化」についてのキャンペーンに、脳科学者の茂木健一郎氏もかかわっている。そこで茂木氏が考えたこととは…。
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いろいろな議論があるようだが、私は「地デジ化」には賛成である。技術の進歩であるし、世界の趨勢。画質が圧倒的に良くなる。むしろ、日本の動きは遅すぎるくらいだと考えている。
キャンペーンは大いにやるべきだし、そのためにはいろいろ工夫があるべきだと思っている。しかし、そこにも「組織の論理」が前面に出てしまうのが、いかにも日本的な光景のようだ。
今年の夏、「地デジ化」終了まであと一年ということで、イベントが行なわれた。原口一博総務大臣(当時)も出席した大がかりなもので、関係者の意気込みが感じられた。
問題は、そのイベントの構成の仕方である。NHK、民放、それから、テレビなどの関連機器を作る業界。さまざまな「団体」のトップが次々と出てきて挨拶する。「地デジ化」にかかわる日本の「組織地図」の要約を見るかのような思いだった。
「地デジ化」が本当に日本国民全体にとっての課題だと考えるならば、もっと他の見せ方があったことだろう。そもそも、肩書きとか組織などは関係ない。業界や関連団体の論理を積み上げるのは、内輪の都合であって、ほとんどの国民にとっては意味がない。
「地デジカ」という、親しみやすい、かわいいシカのキャラクターを作るとか、そういう努力は素晴らしい。しかし、せっかくの「地デジ化まで一年」のイベントは、関連組織の長がその肩書きで登場する、相変わらずの「古い日本」そのものだった。
※週刊ポスト2010年12月24日号