【書評】先生のホンネ 評価、生活・受験指導(岩本茂樹著 光文社新書 798円)
現場の教師たちの「リアルなやり取り」を元教師が再現した著書を、精神科医の香山リカ氏が書評する。
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「先生のホンネ」。このタイトルを見たときに、すっかりこれは、モンスターペアレントや扱いにくい子ども、校長などの管理職、教育委員会や文科省、さらには自分の待遇などに対する不満といった“グチ”や、教員どうしの不倫ネタといった“ナイショの話”が満載の本に違いない、と思ってしまった。言い訳めいているが、これは私が医者で、教師同様、最近やたらと世間からの批判の矢面に立たされることが多い職業だからかもしれない。学校の先生たちのホンネのグチを読んで、「そうそう」と溜飲を下げることができるのでは、と期待してしまったのだ。
しかし、本書はそんな本ではなかった。長年の教師経験を経て大学准教授になった著者は、「学校で同僚や生徒たちに囲まれ、教師はいったい何を考えているのか」という教師の心の本質になんとか迫りたい、と考える。そのために、ある高校を舞台に設定してそこの職員室での教師たちの会話を再現ドラマ風に記しながら、「そこで教師は何を考えたか」を丹念に分析していくのだ。そのリアリティがすごい。会議で、生徒が頭につけているカチューシャの色のことで大論争となり、「学校が乱れてくるのは女子からです。女生徒が色気づくと男子生徒のリズムが狂わされてしまう」なんて発言する教師、たしかにいそう。このままテレビドラマにしてほしいほどだ。
最初は融通のきかない教師に「ムカつくなあ」などと思うのだが、著者の丹念な読み解きを見ているうちに、ちょっと考えが変わってくる。どんな教師でも、基本的には「子どものことを思って」と思っているようなのだ。では、なぜ極端なスタイルに走り、そこで硬直化する教師がいるのか。著者は、それは現代社会が「理想の先生」の出現に期待しすぎ、教師もそれにこたえようとしすぎるからではないか、と言う。
「教師ってさあ」と批判する前に、この現場の教師たちのリアルなやり取りにちょっと耳を傾けてほしい。少なくとも私は、教師を見る目がけっこう変わった。
※週刊ポスト2010年12月24日号