500ページ超、2940円(税込)という読書好きでも尻込みしてしまいそうな大部の経営学本が、発売半年で5万部という異例のヒットを遂げている。
『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社刊)という謎めいたタイトルがその本だ。著者は楠木建・一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。楠木氏にとって初の単著である。
初版は6000部だったが、現在12刷まで版を重ねている。当初は都市部の40~50代ビジネスマンが読者層だったが、新聞・経済誌などの書評や、ツイッター・ブログなどの評判で火がついたという。実際に読んだ人も、「紹介されている有名企業の戦略の実例がちょっとした話のネタになる」(30代・PR会社勤務)、「読者に語りかける文体がわかりやすく、ユーモアもあって読み物として純粋に面白い」(40代男性・メーカー勤務)と手放しで褒める。
例えばスターバックスの戦略は魅力的なストーリーだ。シアトルのコーヒー豆の小売業者にすぎなかった同社は、1987年にCEOに就任したハワード・シュルツ氏が、職場とも家庭とも異なる、安心して集える「第3の場所」というコンセプトを構想した。
このコンセプトを細部まで実現するために繰り出したパスは5つあった。それが「店舗の雰囲気」「出店と立地」「オペレーション形態」「スタッフ」「メニュー」である。
居心地のよい雰囲気づくりのため、店内は全席禁煙にした。仕事に追われてリラックスを求めているビジネスパーソンが多いエリアに出店し、サービスを細かく掌握するため、フランチャイズではなく直営方式を採用した。バリスタと呼ばれるスタッフの接客教育を充実させ、ラテやマキアート、コンパナなど聞き慣れないメニュー構成にして価値を上げた。
その結果、客単価とリピート率が上昇し、長期利益を上げることができた。
※週刊ポスト2010年12月24日号