ハーバード大学のマイケル・サンデル教授の人気講義のような「日本の白熱教室」がある。文教大学人間科学部の教養科目「行政学」だ。尖閣諸島沖・中国漁船衝突事件の映像がインターネット上に公開された問題を取り上げる。
冒頭、講師の高島穣氏は次のように問題を提起する。「映像を公開した海上保安庁の職員は国家公務員。国家の秘密を漏らしたということで、守秘義務違反だという指摘があります。刑事責任を追及すべきだと思いますか」
議論が始まる。最初に指名されたA君が口火を切る。
男子学生A:「国家公務員しか知ることができない映像を、個人的な考えだけで公開したのは、守秘義務違反になる」
女子学生B:「(映像を公開すると)外交問題に発展するのではないか。厳重管理を徹底するように指示されているのに流出させたのはよくない」
高島:「2人の意見は政府の立場に近い。反論はある?」
男子学生C:「映像の厳重管理の指示が出るまでは、海上保安庁の職員なら誰でも映像を見ることができた。秘密扱いになる前に映像を取り出していたのなら問題はない」
女子学生D:「でも、また後で真似する人が出てきてしまう可能性がある」
男子学生E:「国政の重要事項は国民が決めるというのが憲法の思想。そのためには国民が必要な情報を持っていなければならない。今回の映像は国民の知る権利内の情報だ」
次第に職員の刑事責任はないとの意見が優勢となる。
男子学生F:「船長の逮捕が報道され、その時点で秘密じゃなくなっている。暴いたからといって罪にはならない」
男子学生G:「漁船の船長は釈放されて帰国しており、これから裁判が始まるとは考えづらい。映像は刑事訴訟法における訴訟書類に該当しない」
男子学生H:「うやむやなままで終わっては困る。国民には知る権利がある」
※SAPIO2011年1月6日号