SAPIOが識者50人に実施した最強のタフネゴシエーターは誰か、というアンケートで10位に選ばれたのは徳川家康。ベストセラー『のぼうの城』で知られる作家・和田竜氏が家康の骨のある交渉術を解説する。それは、織田信長を相手にしたときのことだった。
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家康がハードネゴシエーターたる所以は、従う際は徹底的に従いつつも、しっかりと骨のあるところを見せる部分にある。代表的なのは、信長に対して見せた姿勢であろう。
家康の支城、長篠城が武田勝頼に攻められ危機に陥った際、家康は岐阜へ援兵を請うため使者を発した。が、当時家康と同盟関係にあったはずの信長は、援兵を出すことを渋る。ここで家康は骨のあるところを信長に見せた。
家康は、再び使者を信長に発し、こう言わせたのだ。
「吾(家康)は先年信長と講和を整え、互いに援助すべしと約束したから、数度信長を救い、大功を遂げさせたのだ。いまさら信長が違約して、加勢しないのならば、吾は勝頼と和睦して彼の先鋒となり、信長を攻め、尾張を平らげ、吾がものとするぞ」
信長を脅したわけである。
史料には、「信長大いに驚(き)て援兵を出せり」とあるから、この脅しは大いに効いたわけである。結果、長篠合戦となったのだ。
※SAPIO2011年1月6日号