SAPIOが識者50人にアンケートした「日本のタフネゴシエーターは誰か」で森永卓郎氏はソフトバンクの孫正義氏をあげた。孫氏の強みとは一体何か?森永氏が説明する。
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いまやIT長者のトップとして君臨する孫正義氏は、ビル・ゲイツのような技術者として頭角を現わしたわけではない。彼の最大の能力は、「他人のふんどしで相撲をとる」ことだ。
自動翻訳機の開発で、1億円の資金を手にした孫氏は、まだ数人規模の小さな会社であった米国のヤフーに目をつけ、出資をする。その時取得した株式が、ヤフーの急成長とITバブルに乗っかって、莫大な資産となった。
ただ、ソフトバンクはヤフーの大株主というだけで、基本的な性格は投機資本だった。高い時価総額を背景に次々にM&Aを仕掛け、さらなる時価総額増をねらう「虚業」だったのだ。
しかしソフトバンクがITバブル崩壊を乗り切り、さらなる発展を遂げたのは、虚業を実業に切り替えていったからだ。最初の大きな賭けは、「ヤフーBB」によるブロードバンドビジネスへの挑戦だった。
当時、誰もが無謀だと言った。何しろ敵は巨人のNTTだ。ところが、孫氏は街頭で端末を無料配布するという思いも寄らぬ戦略で、実績を築いてしまった。
2回目は、日本テレコムを買収して、有線電話事業へ参入したことだ。再びNTTに立ち向かったのだ。そして、立て続けにボーダフォンを買収して、負け組携帯電話会社を一流にのしあげた。さらに、iPhoneの販売権を得ることで、携帯電話事業を揺るぎないものにした。
節目ごとに、鋭い嗅覚で成長ビジネスを見つけ、思い切った買収に出る。だからソフトバンクの事業は基本的に他人が作ったものだ。
しかし、そのことこそが孫正義氏の最大の才能であるし、タフネゴシエーターとしての本領発揮なのだ。
※SAPIO2011年1月6日号