国際情報

外国だけでなく国内の反体勢力とも戦った岸信介の超交渉術

 尖閣諸島や北方領土問題などで外交失策の続く民主党政権。SAPIOでは50人の識者に日本史上最強のタフネゴシエーターは誰か、アンケートを実施した。5位に選ばれたのは岸信介元首相。日米安保条約の改定という難題に取り組んだその交渉術を産経新聞ワシントン駐在編集特別委員の古森義久氏が分析する。
 * * *

 日本の戦後史でも岸信介氏ほど苦境、逆境のなかで対外交渉をうまく達成した政治指導者は珍しい。

 外交交渉の相手は単に外国ではなく、実は背後の自国の各種政治勢力なのだという場合も多い。岸氏はその点、背後から飛んだ反対の銃弾をも毅然かつ巧妙にかわし、対外交渉を着実に進めていった。まさにタフネゴシエーターの名に値しよう。

 岸氏の対外交渉といえば当然、1960年(昭和35年)、日米安全保障条約の改定である。

 岸氏は当時の総理大臣だった。岸首相の最初の交渉相手となった駐日アメリカ大使ダグラス・マッカーサー二世に、私は1981年4月にインタビューしたことがある。

 マッカーサー氏は語った。
 
「アメリカは1958年の当時、すでに対等性と相互性に基づく同盟のための安保条約を西欧諸国とも東南アジア諸国とも、韓国と台湾とも結んでいました。日本との条約が唯一、平等や相互の基本がなかったのです。
 
 岸さんはこの点を説いて普通の安保条約に変えることを求めてきたのです。しかも私が当時のアイゼンハワー大統領ともダレス国務長官とも個人的に親しいことを知ったうえでの効果的な働きかけでした」
 
 日本には憲法九条があり、アメリカとの軍事同盟でも普通の相互性は盛り込めなかったにせよ、新安保条約では米軍による日本防衛の責務や在日米軍の装備や運用上の大幅な変更への事前協議制をきちんと明記することとなった。
 
 岸氏はこうした諸点をまずマッカーサー駐日大使を通じ、アメリカ政府としっかりと交渉していったのである。首相自身が先頭に立ってのタフな交渉だったのだ。
 
 しかも岸首相のこの安保改定は日本国内で猛烈な反対にあった。ソ連と中国がその反対を最大限にあおっていた。安保反対のデモ隊に国会が包囲され、岸氏の私邸も包囲され、国内の一大危機と思われる状態にもなった。
 
 だが岸首相は頑としてその反対を抑え、日米安保条約の改定を成しとげた。それ以後の50年間、日本は平和と繁栄を享受した。もし安保がその時代に破棄されていたら日本はどうなっただろう。
 
 それを考えれば、岸信介氏の英断は証明されたといえよう。

※SAPIO2011年1月6日号

関連キーワード

トピックス

天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン