【書評】
【1】戦時児童文学論―小川未明、浜田広介、坪田譲治に沿って(山中恒/大月書店)
【2】漫画教室(手塚治虫/小学館クリエイティブ)
【3】全国貸本新聞(不二出版)
評者:大塚英志(まんが原作者)
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猪瀬直樹と石原慎太郎という文学者出身の政治家に主導され進行するまんが表現の規制は、かつて十五年戦争下、詩人出身の内務省官僚・佐伯郁郎が百田宗治などの詩人人脈を実動部隊として児童図書の規制を始め、それがまんがに及んだことが連想される、と以前書いた。
【1】を読むと、その規制をプロレタリア児童文学者が当然視するような発言があったことが指摘され興味深い。小熊秀雄がまんが規制に何故、加担したのか納得できる。山中は児童文学者が戦時協力していった背景に「時代的気分」、つまりは今で言う「空気」にあったと考え、その「空気」が作られていく過程を膨大な資料をふまえ丹念に追っていく。作り手自身が抑圧する側に回ることで保身しているものこそが本当は「文学」の戦う相手だったんじゃないの、と言ったところで今も昔も誰も聞かないのだろう。
結局、「時代的気分」に抵抗しうるのは山中のように歴史資料を丹念に読みほどく手間暇ではないか。【2】、【3】もマニアックなまんが史ではなく「戦後史」の資料としてどう読み取っていくか、「使う側」の歴史を見る力量がやはり問われる。
※週刊ポスト2011年1月7日号