御年84歳の“メディアのドン”読売グループ本社のナベツネ氏こと渡辺恒雄会長が、またぞろ民主・自民の大連立工作で永田町を騒がせたのは記憶に新しいところ。果たして政治とメディアの関係において、それは健全といえるのか。
ジャーナリストの上杉隆氏が、日本テレビ元政治部長の菱山郁朗氏と対談。日本メディアの病理を告発する。
上杉:菱山さんは1988年のリクルート事件で、中曽根康弘前首相(当時、以下同じ)らへの未公開株譲渡問題を国会で追及していた社民連の楢崎弥之助代議士に、リクルートコスモスの社長室長が500万円を渡そうとしたシーンを撮影。夕方のニュース番組で放送したその映像が、この社長室長の逮捕につながりました。しかし渡辺さんはかなり怒っていたそうですね。
菱山:ナベツネさんの盟友である中曽根康弘前首相の疑惑がさらに深まることになり、日テレの小林与三次会長が高木盛久社長らを呼びつけた。そこに同席していたナベツネさん(当時読売副社長)が「余計なことをしてくれたもんだな」「いったいどういう社員教育をしているんだ、君のところは?」「中曽根の立場が危うくなるではないか」とすごんだんです。
上杉:本来なら高く評価されるべき報道なのに、批判され、怒られるとは。
菱山:ナベツネさんはホテルオークラの山里という料亭に政治家を呼んで、仲間の政治評論家らと話をする「山里会」を開いていますが、朝日新聞や毎日新聞のベテラン編集委員まで顔を出している。要するに朝日も毎日もナベツネさんの手の内に組み込まれているわけです。これが日本のジャーナリズムの特異性で、こんな状態でいいはずがない。
上杉:政治ジャーナリズムが機能していない、象徴的なものですね。記者クラブメディアは渡辺・氏家を批判できない。
菱山:結局、ナベツネさんの政治力に頼ってきたからですよ。新聞業界でいえば、再販価格の維持(定価販売を小売業者に守らせる制度)もナベツネさんが全部統括してきた。
上杉:放送のほうは免許制度ですね。日本の場合、テレビも新聞もクロスオーナーシップ(同一資本が新聞、テレビなど複数のメディアを系列化すること))で完全に一体になっている。また、システムとして経営と編集が分かれていないことも、海外メディアではありえません。
※週刊ポスト2011年1月7日号