12月26日、最後の「M-1グランプリ」に挑む笑い飯に、ノンフィクションライターの柳川悠二氏が密着し、レポートする。
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ほとんど言い争うようなことがないというふたりだが、一度だけ大ゲンカをしたことがある。結成から間もない頃のことだ。新しく誕生したM-1を踏み台に、いかにのし上がっていくかを、若手芸人が集まるミナミの居酒屋で語り合っていた。
話が優勝後の青写真におよぶと「東京のゴールデンタイムの番組のMCをしたい」という哲夫に対して、相方の西田幸治は「大阪の深夜に、エロ番組の司会をしたい」と口にした。同じMCの仕事でも、あまりに志が低い西田に哲夫は噛みついた。
狭い居酒屋の一角で、殴り合いのケンカが始まる。端から見れば「そんな些細なことで」と思われる理由だろう。だがそこにこそ人気者に対する「ジェラシー」を抱えながら青春時代を過ごした芸人の、譲れないプライドが見え隠れする。
「僕は高校時代に自分の面白さをみんなに知ってもらいたかった。自分の面白さを発揮するためにこの仕事を選んだというのが根底にあり、今も機動力になっている。西田も僕と同じ過去を持っているはずなんですよ。プロの芸人を目指して、ようやく世間の前に立とうとしているのに、まだ深夜番組の隅っこの方に立ちたいと言う西田が許せなかった。僕はねマイノリティやなく、マジョリティに、全国民に、自分という存在を知って欲しいんですわ」
今年、笑い飯は東京にも部屋を借りた。満を持しての東京進出である。
※週刊ポスト2011年1月7日号