70歳にして精力的に公演を続けている演出家の唐十郎氏は、昨今の日本人の“皮膚感覚の無さ”を感じるという。「要領よく立ち回るのではなく、壁にぶち当たり、血を流して涙することが大事」と語る唐氏は、先頃行なわれた事業仕分けもにも“皮膚感覚の無さ”を感じるという。
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日本人は“ヒト”としての皮膚感覚が鈍くなっているのではないか。熱い、冷たい、痺れる、腫れる……原始的な感覚が弱くなっているから、すべての文化の根源である“虚構”を創造するための唯一のリアクションとなる“痛み”がなくなってしまった。痛みのないところに虚構はなく、虚構がなければ何も生まれない。
バーチャルな世界が全盛の今の世にあって、リアルな“痛み”など意味のある感覚ではないのかもしれない。“痛み”を感じることができないから、何でもオール・オア・ナッシングで振り分けられるようになった。
その象徴が「事業仕分け」だ。これは必要、これは不要……いったい誰にそんなことがわかるというのか。事業を仕分ける暇があったら、男と女の間に漂う空気を仕分けたらどうだ。そうすれば、男と女の間には泥だらけの性欲しか存在しないことがわかるはず。それが皮膚感覚というものだ。
※週刊ポスト2011年1月7日号