国内外の投資家からそのリサーチ力が高く評価されている、元ドイツ証券副社長・武者陵司氏によると、2011年は世界経済復活の年になるという。以下、武者氏の分析。
* * *
2011年の世界経済を語るためには、やはり米国経済の行方を分析しなければならない。
2009年に底打ちをしたとされる米国経済だが、2010年中は本格的な回復には至らなかった。失業率の高止まりに見られるように、低調な雇用が続く中、企業の在庫積み増しの動きが一巡し、住宅取得減税の停止による住宅需要の反動減が起きたため、経済成長も一時的に鈍化してしまった。
しかし、米景気の二番底懸念はない、と言い切っていいだろう。ファンダメンタルズを冷静に分析すると、深刻な不安材料は見られないからだ。企業も家計もバランスシート上の調整は完了し、贅肉はそぎ落とされている。そして、経済成長の大きなエンジンである企業の収益は大きく回復している。そのため、企業の手元資金は過去と比較しても空前の余剰状態にある。本格的な回復への準備は整っているのだ。
問題は雇用だが、私は、「米国景気が二番底に陥る」といったネガティブな心理的要因さえ除去されれば、おのずと回復すると考えている。その心理的要因を取り除き、企業経営者や個人を前向きにさせる切り札が、FRB(米連邦準備制度理事会)が11月からスタートした「QE2(量的金融緩和第2弾)」だ。
QE2の柱は、FRBが2011年6月まで、総額6000億ドルの規模で米国債を買い入れる、という内容である。狙いは、FRBが直接資産価格に働きかけ、金融市場の期待(心理)を改善させることにある。FRBの長期国債購入によって、国債および国債を組み入れた投資信託の価格が上昇し、金融機関や企業、個人の資産を押し上げることが期待されている。
すでに、米国株式市場は、8月に発表されたQE2を実施するというFRBのアナウンスメントだけで反発に転じ、発表された中身が予想の範囲内であったにもかかわらず、FOMC(金融政策決定会合)で正式決定された直後、リーマン・ショック前の水準をあっさりと回復してしまった。この事実だけでも、心理的な効果はすでに十分表われているといえよう。
QE2によって米景気の二番底懸念が払拭され、収益が好調で余剰資金が豊富な米企業は、積極的な投資を始めるに違いない。そうなれば、しだいに雇用者数が増加するとともに、個人消費も活発化し、米国経済は11年半ば頃から力強く回復してくるはずだ。
いったん、米国経済が回復局面に入れば、過去のケースから回復期は5~10年は続く。成長の天井はまだまだ高い。そうしたシナリオの下に、NYダウは、11年内に1万2000~1万3000ドル近辺まで上昇していくだろう。米株高に連れ、世界の株式市場の時価総額も高値を更新していく可能性が高い。つまり、11年は世界的株高が起きるのである。
※マネーポスト2011年1月号