2011年11月に横浜で開かれたAPEC(アジア太平洋協力会議)期間中に行なわれた日中首脳会談で、胡錦濤主席は椅子に座るなり、スーツのボタンは全て外し、ややそり返った姿勢で応じた。
世界各国の教育事情を取材したノンフィクション作家の河添恵子氏は憤る。「スーツのボタンを外したのは、『あなたの話を聞くつもりがない』という言外のアピール。最初の構えで、日本は負けていたのです。日本政府の交渉力のなさを、諸外国に印象づけるシーンでした」
では、日本で「タフネゴシエーター」を育成するには、どうしたらいいのか。河添氏はこう指摘する。「例えばフランスでは、町の議会に中学生の代表が出席し、予算獲得のためのプレゼンを行なう機会が与えられる」――10代の頃から実地訓練を積ませるのだ。これなら日本でもできる。
もうひとつは、大学でのディベート教育の徹底だ。現在、アメリカ流のディベートを授業に取り入れる大学も増えてきた。だが、アメリカのハーバード大学の行政大学院、ケネディスクールの出身者で、キャリアデザインスクール我究館の杉村太郎会長は、「形だけ真似ても意味がない」と指摘する。
「真の議論は、ダイバーシティ(多様性)より生まれます。日本人だけで議論しても、交渉力は学べません。外国の留学生を増やすか、もしくは海外留学し、世界の共通語である英語でディスカッションを行なう機会を増やす必要があります」
日本に来ている留学生数は、12万3829人(2008年5月1日現在、文科省調べ)。この数をもっと増やし、各大学をダイバーシティ化する。その中で揉まれて初めて、「タフネゴシエーター」が誕生するのではないだろうか。
※SAPIO2011年1月6日号