「若者のクルマ離れ」が叫ばれて久しいが、自動車評論家の徳大寺有恒(71)にはクルマ離れを止める秘策があるという。氏のアイデアを聞いてみよう。
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若い人の“クルマ離れ”が世間の耳目を集めるようになって久しい。日本の若者がクルマに乗らなければ、日本の自動車産業に未来はない。ところが、由々しき問題にもかかわらず、日本の自動車メーカーは気が抜けるほど危機感がない。海外で売ることばかりに目が向き、日本市場など歯にもかけていないかのようだ。
若者たちがクルマに目を向けないのは、メーカー各社が彼らを振り向かせるに足る魅力あるクルマを開発してこなかったからだ。「都心からはちょっと遠いけど、環八辺りのマンションに住んでもいいから乗ってみたい」と思わせるようなクルマを造らない限り、日本の自動車産業は間違いなくジリ貧になるだろう。
現在、日本の自動車メーカーは商業車専門メーカーを除くと8社もある。この数は世界的に見ても多すぎる。多いだけならまだしも、どの会社も数字を追いかけている点が問題だ。販売台数、売上金額、当期純利益、シェア……社長から末端の社員まで一丸となって数字の目標に突き進んだ結果、効率的に大量販売できる車ばかりを造るようになってしまった。
英国のロールスロイスやジャガーのように、クオリティーを追求するメーカーが日本にもあっていいのではないか。逆に、100万円のシンプルな小型車がなぜ出てこないのか。200万円のクルマを造って競争するのではなく、100万円の面白い車もあれば、3000万円の高級車もあるという幅の広い考え方のできる会社がなぜ出てこないのか。売上2割減でもきちんと利益の出る値段の高いクルマを造り、「いつかあれに乗ってみたい」と若者にいわせてやるという気概をなぜ持てないのか。
昔、フランスのシトロエン2CVという車があった。何ということのない2気筒のクルマながら、デザインがじつにオシャレで見とれてしまう力があった。あんなクルマを今造ってみてはどうだろうか。草食系などと揶揄されるイマドキの若い男たちも、女の子にモテそうなクルマならきっと買ってくれるはずだ。
※週刊ポスト2011年1月7日号