11月23日に発生した延坪島砲撃事件では、最前線で「北朝鮮への備え」がまったくできていなかった韓国軍だが、その背景には「平和ボケ」があった。なぜこうなってしまったのかを産経新聞ソウル支局長の黒田勝弘氏が解説する。
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徴兵制のある国民皆兵の国では、軍隊は一般社会の雰囲気の影響を受けやすい。平時はとくにそうだ。大学生が中心で兵営生活は2年ほどという韓国軍は、現代若者社会の縮図でもある。
彼らは対北融和政権だった金大中・盧武鉉政権下(1998-2008年)の10年の教育で、学校やマスコミを通じ親北・左翼教育をたっぷり受けた若者たちだ。北朝鮮への警戒心を解体させ「平和ボケ」になってしまった韓国社会の延長線上にある。これじゃ北への気合は入らない。
これを立て直すのが軍隊生活だが、軍の指揮官たちが「北を刺激してはいけない」という融和政権の下で事なかれ主義に陥った。北がらみの情報や報告は縮小され、いつも「たいしたことない」となった。
実際に聞いた話だが、近年、部隊指揮官がもっとも気を使う問題は事故だという。
部隊内の事故(病死や自殺、ケンカなどを含む)があると、遺族やマスコミが大騒ぎし、たちまち責任を取らされるからだ。訓練や勤務も安全第一で、兵士から不満が出ないよう気配りが重要となる。
「太陽政策」という対北融和政策は北朝鮮の「変化」を誘導しようというものだった。しかし変わったのは北朝鮮ではなく韓国だった。哨戒艦撃沈では「北の犯行ではない」とする意見が国民の30%以上もあり、延坪島砲撃でも「責任は李明博政権の対北政策失敗にある」との声が広がる兆しだ。
韓国が「失われた10年」を立て直すには李明博政権の5年では足りない。少なくともさらに5年、保守政権も10年続かないとこの病は治らない。
※SAPIO2011年1月6日号