1980年代後半、米証券会社ソロモン・ブラザーズに入社し、同社の高収益部門の一員として活躍し、巨額の報酬を得た後に退社した赤城盾氏。同氏は、現在の円高が日本経済に与えるダメージについて、以下のように分析している。
* * *
もはや、大企業といえども円高のショックから従業員を守る余力はない。企業は、正社員の年功序列を維持しつつ、派遣社員を安全弁として業績に連動して機動的に雇用を増減させる体制を整えた。
長期的に人口が減少する国内市場に頼っていては未来への展望は開けないから、おそらく、今回の円高を機に、日本の製造業は生産拠点の海外移転に拍車をかけるであろう。
その徴候ともいうべき統計がある。
単身世帯を対象にした2009年の総務省の調査によれば、30歳未満の若年層で、女性の可処分所得が男性を上まったというのだ。この調査は5年に一度行われており、前回2004年の時点と比較して、女性の可処分所得は11.4%上昇して21万8156円、男性は7%減少して21万5515円となった。失業率も、男性のほうが女性よりも高い。
この5年間で国内製造業の雇用は77万人も減少した。若い男性が働く工場は、既に、日本から消えつつある。一方、高齢化を背景に、若い女性が求められる医療、福祉分野の雇用は90万人も増加した。
この傾向は、為替相場が極端な円安に振れない限り、変わることはないであろう。もし現在の為替水準が続けば、やがて、少子化による労働力不足も手伝って、国内産業は完全に空洞化して外国に売るモノはなくなる。
残るのは、資産を食い潰しながら介護を受ける老人、介護のプロの女性、そして、仕事もなく昼間から街をブラブラする男たち、であろうか。
※マネーポスト2011年1月号