「自転車で、車と事故を起こしたのですが、相手にこちらの不注意だといわれました」…そんな相談が弁護士の竹下正己氏のもとに寄せられた。
【質問】
自転車に乗っていたら、前の車がバックしてきてぶつかり、自転車ごと倒れてけがをしました。相手の加害者は私の不注意だといいますが、納得できません。私は軽いけがで、先方の車も少し傷がついたようです。このような事故の場合の交渉で、大事なことを教えてください。
【回答】
交渉のポイントは、その目的によって違います。賠償請求するのであれば、相手方を説得できる証拠と理由付けが必要です。大事なことは有利な証拠の確保であり、交渉の前に目撃者の確保も必要です。さらにけがをした場合であれば、必ず警察に届け出て、自賠責保険の被害者請求ができるようにしておくことも大切です。
けがが車との衝突によるものであれば、運転者や所有者が注意を怠らなかったことを証明しない限り、彼らは治療費や休業損害などの賠償責任を免れません。これは自動車損害賠償保障法(自賠法)で、人身事故による損害は、運転者側で無過失を証明できない限り、免責されることがないからです。バックして事故を起こした自動車運転に過失がなかったとは、通常考えられません。
道路交通法第25条の2で、「車両は、歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の施設若しくは場所に出入りするための左折若しくは右折をし、横断し、転回し、又は後退してはならない」と定めています。
原則として後退は危険であり、バックしてあなたの進路を妨害してはならないということになります。
とはいえ、例えば自転車専用道路があるのに車道を走り、あるいは道路中央付近の走行、バックの合図を見落として突っ込んだ、というようなことがあれば、あなたの不注意も事故の一因であり、けがによる損害賠償額も過失相殺されるでしょう。また、これらの場合には、自動車の修理代の幾分かの負担もやむを得ないかもしれません。しかし、バックをした自動車側の過失のほうがはるかに大きいのが普通です。
先方があなたのどんな不注意を主張するのかを聞き、納得できるまで協議してください。
※週刊ポスト2011年1月7日号