キリンビールをはじめとする酒類事業から、飲料・食品、医薬事業まで、幅広い事業展開を見せるキリングループ。2007年には創業100周年を迎え、それを受けて「次の100年」を見据えた長期経営ビジョンを策定し、新たな成長戦略を打ち出している。「100年経営」を標榜するキリンホールディングス・三宅占二社長に、その狙いと現状を聞いた。
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――改革ビジョンを決めても、いざそれを社内に浸透させるのに各社苦労しています。どのような工夫をしました?
三宅:大きな方針を作る際は、もちろん現場の声や実態を吸い上げますが、最終的にはトップダウンです。ただ、それを浸透させる際には現場の社員の「腑に落ちる」ように説明しないといけない。「会社の方針だから」という説明では、社員には届かない。
――つまり、社員一人ひとりに納得してもらうということですか。
三宅:そこが一番大事だと思うんです。私自身、若い時に上司から、「何か指示された時には、『はい、わかりました』ではなくて、『それはどうしてですか?』と質問しろ」と言われてきました。しかも、「返ってきた答えに、また『どうしてですか』と繰り返せ」と。それを5回続けるようにと言われたんです。
普通の人が上司だと、2回目か3回目で面倒くさくなって、「うるさいな、お前。それは会社の方針なんだよ!」と言ってしまう。そういうリーダーではダメなんです。現場も、自分が腑に落ちるまで、上司にどうしてなのか聞き返さなければ、自分が成長しない。問いを繰り返すことによって思考が深まり、問題の本質が見えてくる。それができるためには、自由闊達な組織風土が大切なのです。
――三宅社長は、その上司の言葉を実践してきた?
三宅:生意気な奴だったと思いますよ、若い時は(笑)。
――改革ビジョンを浸透させていく時にも、その考え方を貫いたわけですか。
三宅:そうですね。長期ビジョンを最初に社外に公表した06年当時、私はキリンビールの社長でしたが、まずはビジョンの達成に向けて、あるべき組織風土を社員に語りかけました。
目指すは、経営陣と現場といった上下の距離が短く、お互い自由闊達にものを言い合い、一人ひとりが仕事を通じて自分の成長が実感できる組織風土にしたいと。そのために、当然ながら部門間の壁などはなくして、「横連携」しよう、「チームキリン」でいこうと、いろいろな部署に出向いて話しました。
かつて私は、キリンビールの社員は「上向き」「内向き」「箱文化」だと評したことがありました。上司の都合ばかり窺っているのが上向き、自分の部門のことしか考えないのが内向き、自分の枠の中に閉じこもって外へ出ようとしないのが箱文化。それではダメなんですと。
それらに相反する言葉が、「横連携」と「チームキリン」です。そこで、営業、物流、製造の現場から担当者やリーダーを一か所に集めて議論させるフォーラムなどの場を作ってきました。
――何か変化はありましたか。
三宅:例えば、工場で白衣を着て品質管理を担当している人と、飲食店に行って生ビールのおいしい注ぎ方を教えている営業の人が議論しているうちに意気投合するわけです。そんなに品質管理に気を使っているのなら、営業現場はもっと売らなければ。営業がそこまで一生懸命やっているのなら、品質管理をもっとしっかりしなければ、と響き合うわけですね。横連携が重要だという意味が腑に落ちてくる。
また、こちらから議論のやり方を提示することもあります。例えば「質問会議」という方法。ルールとして、「意見」を言ってはダメで、許されるのは「質問」だけというものです。
まず、問題提起をする人がいて、「店頭で品切れが起きてしまう」「残業が多くなってしまう」といった今自分が直面している課題を提示する。周りの人は、「どういった時に品切れがあるのか?」などと質問だけを投げる。意見は言わない。そうすると、悩んでいた本人が自分の中から課題の本質や答えを導き出せる。その答えをグループの中で共有して、業務の改善につなげていくんです。
――「腑に落とす」ための方法論をいろいろと工夫しているのですね。
三宅:キリンホールディングスの社長になってからは、現在の連結子会社は海外も含めて285社に及ぶので、そうしたキリングループ全体の社員が一丸になれるような意識の醸成が、まさに今、私に求められている仕事だと思います。
■聞き手/阿光豊(ジャーナリスト)
※SAPIO2011年1月6日号