大事な家族が嫁ぎ先で辛いめにあっていないか、気になる人も多い。群馬県36才の主婦伊藤裕子さん(仮名)は、33才の妹S子さんが受けた仕打ちを訴えた。(女性セブン1989年5月18日号より)
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S子さんをもっとも悩ませたのは、姑の異常なまでの潔癖症であった。いつも家の中がピカピカになっていないと気がすまない性格で、掃除をするたびに点検し、わざわざ脚立を持ち出して、シャンデリアや蛍光灯の傘を指でひと撫でもふた撫でもして、ホコリがないかどうか、毎日のように確かめるのだった。
「……妹の姑は“ワックス狂”で、3日に1度、床や階段にそれこそ半日くらいかけてワックスを塗りたくるんです。ホコリのないのが誇り、いや生きがいなのです」
そして、ついに忌まわしい出来事が起こってしまった。S子さんのお腹には3人目の生命が息づいていた。妊娠5か月、身重のS子さんは、家中ワックスがけの中、滑って転びそうなので気が気ではなく、姑が出かけたスキにワックスを拭きとるようにしていた。
今年の1月末のことだった。東京のデパートに姑が出かけたその日、S子さんはいつものように、大きくなり始めたお腹を抱えて、まず寝室のある2階の階段から、次に廊下、玄関とせっせとワックスを拭きとっていた。海外へ2ヶ月近く出張している夫のことを思ったりしながら……。
拭き始めて30分、玄関のドアがいきなり開いて、ツカツカと誰かが入ってきた。S子さんが振り向きざまに、すさまじい罵声が飛んだ。
「この売女! 人がせっかくピカピカにしたのになにしやがるんだい。おまえ、この家がボロボロになればいいと思ってるんだろ!!」
忘れ物をした姑があわてて帰ってきたのだ。姑に胸ぐらをつかまれた嫁は、その場にひっくり返ってしまった。その夜、姑は夜叉になった。
「あんな嫁さえいなけりゃ、息子を私の手もとにとり返すことができる!!」
嫁が寝込んでしまった真夜中、姑は呪文を唱えるようにぶつぶついいながら、階段にたっぷりとワックスを塗り、その上にろうそくを細かく削って、空ぶきんで念入りに磨きあげたのだ。
翌朝、なにも知らないS子さんは、前日にワックスを拭きとっておいたと安心していたからたまらない。2段めから足を滑らせ、そのまま階段から転げ落ちてしまった。
姉・裕子さんは、憎しみにふるえている。「妹は足首の骨を複雑骨折し、いや、それどころか、お腹の赤ん坊は流産してしまいました。そしてあまりのショックで、精神状態が不安定になり、2週間ほどして精神病院へ入院させられました。
ところが、あの鬼姑は一度も見舞いにきません。それどころか、頭がおかしくなった、と近所の人にいいふらし、最愛のひとり息子との離婚をいま画策しているらしいのです……」