役者人生60周年を迎えた俳優、三國連太郎(87)。その名は誰もが知れど、その素顔を知る者は、意外や少ない。インタビューでコンプレックスゆえの屈折した女性観を語った。
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――三國さんの対談集『おんな探求』(1977年)で「そういう臆病ってどこからきてるんですか?」って岩下志麻さんに聞かれたとき、三國さんが性的悩みを告白したことがあって(笑)。
三國:「ハハハハハ! だからコンプレックスがあるんですよ」
――コンプレックスはみんなあるわけですけど、それをここまで堂々と言ってる俳優さんを初めて見てビックリしたんですよ(笑)。
三國:「ああ(笑)。僕、女優さんとのスキャンダルがさもありなんというようにマスコミで書かれたりしてましたけど、本当はそんなこと全然ないんですよ」
――なぜなら自信がないからってことですか(笑)。
三國:「そう、自信がないんです。有馬(稲子)さん(1932年生まれ、『夜の鼓』などで共演)とのことにしたって、みんな嘘っぱちで関係ないです。金がないからコーヒー代をたかっただけ(笑)。逃がしちゃいかんと思うから、宝塚の公演してると、有楽町の駅の裏の喫茶店に寄るのを待ってるんです。で、コーヒー何杯か飲んで、彼女の名前でつけちゃう。だから、「え、私こんなに飲んだ?」って、後で怒られたこともありますよ(笑)」
――ただのたかり(笑)。
三國:「たかり専門だった。だってあの頃、松竹からもらったのが映画1本5000円でしたから、コーヒーなんか飲めないんですよ。だから、日劇の裏の喫茶店に必ず宝塚で公演した連中が来るんで、それを狙うんです。そのままついてって、船橋の、有馬さんの後援会やってたお医者さんのところに泊まり込んで。もう帰れないから。そうすると、なんかあったってことになるわけですよ。だからご迷惑かけちゃったんだよね。関係ないんです、全然」
――モテそうな俳優さんがそういうこと言っても信じられないですけど、コンプレックスがあったと聞くと納得できますね(笑)。
三國:「ホントにダメだったんですよ。モテたためしがない。たかってるもんだから、逃げられたことはありますけど。昼飯を食べる金もないもんですから、ちょっと遅れ気味に食堂に行くと、みんなお昼食べてるわけ。そうすると、全部彼女や彼らのツケにして、それでサッと帰っちゃう」
――たかりの天才じゃないですか(笑)。それなら貧乏にも強そうですよね。
三國:「はい。その頃、僕は練馬のほうの田んぼの中の一軒家に世話になってて、どっかの喫茶店で知り合った女性の実家だったんですよ。『寝るとこねえんだ』って言ったら『じゃあ、ここにいらっしゃい』ってなって。農家だから、米はいくらでもあるだろうなと思って」
――ちなみに、その練馬の女性とも肉体関係はなく?
三國:「あ、なかったです。あと、これまで女優さんを好きになった記憶はないですね。ひとり夢中になった人はいますけど、『あ、怖い人だ』って思ったから」
――ダハハハハ! それは女優という生き物が怖いっていうことなんですか?
三國:「女優さんの習性なんじゃないでしょうかね。ナチュラルな感じで女性対男性という関係の中でお付き合いができないと思うんですね。日常的にお芝居をしてるような気がするから」
聞き手■吉田豪
※週刊ポスト2011年1月21日号