とてつもない発想、旺盛なチャレンジ精神、圧倒的なスピードで世界を席巻するグーグル。グーグルの強さとは何か。ソニー勤務後、昨年4月までグーグル日本法人社長を務め、シリコンバレーの実情を知る辻野晃一郎氏が、その秘密を語る。
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私が22年間勤めたソニーを辞め、グーグルに就職したのは2007年4月。シリコンバレーの本社に行ってカルチャーショックを受けたが、第一印象は、いろんな国の人々が、広大な敷地の中で本当に自由に楽しそうに仕事していたこと。
映画のスターウォーズに出てくるサロンの情景を思い出したりした。恐竜の骨格のオブジェがあったり、大学以上にカジュアルな雰囲気が漂っていた。シリコンバレーの企業には似たような雰囲気の会社が多い。なぜなのか?
グーグルのような会社には、常に新しい発想によるイノベーションが求められる。CEOのエリック・シュミットは「イノベーションのためにはコミュニケーションが一番大事」とよく言っていた。コミュニケーションというのは、相手が誰であってもフェアに自分の主張をし、同時に相手の言うことに対し、謙虚に耳を傾けることだと思う。
担当役員や部長から何か言われて、反対意見が言えなくなるようではダメなのだ。グーグルは肩書を意識せず、フラットなコミュニケーションを取りやすい環境を意識的に作っていた。カジュアルでフランクな雰囲気は、その意味でとても大事に思える。
一方、日本の企業を見ると、カジュアルな雰囲気はほとんど感じられないし、上司は部下の意向を無視して「業務命令」という名の下に仕事を押しつけているケースもある。これではコミュニケーションが成立しないし、新しい発想も生まれないと思う。
もう一つ、グーグルではCEOを含めて、原則的にすべてがハンズオン(自ら動く)だった。私の入社直後にCEOのエリックが来日したが、日本での滞在時間はわずか20時間ほど。その間に社員を集めて会議を開き、パートナー訪問やインタビューもこなした。さらにその合間を縫って、自分で出張レポートを書き、本社に送付。すぐに本社から問い合わせの連絡が入るという具合で、彼の仕事ぶりは、まるで一陣の風のようなスピード感に溢れていた。
これに比べて、日本の大企業のトップはどうか。何事も秘書や部下まかせにすることが多いのではないだろうか?エリックの仕事ぶりに接し、経営者の本来あるべき姿を見たような気がした。
※SAPIO2011年1月26 日号