ケータイ、TV、PCが「同期化」――「ワンソース・マルチデバイス」という“究極のIT環境”に動くグーグルの勝算について、経済評論家の大前研一氏(67)はグーグルの2つの弱点を指摘する。
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一つは広告収入を成長の原動力としてきたグーグルは、一般ユーザーとの間に「帳合」(支払い方法)を持っていない(利用者の財布を握っていない)ことだ。逆に、帳合を確立したIT企業の代表例がアマゾンである。グーグルもオンライン決済代行サービス「グーグルチェックアウト」を提供してはいるが、利用者数は伸び悩んでいる。
2010年11月、グーグルCEOのエリック・シュミットは、アンドロイド端末に日本の「おサイフケータイ」同様の電子決済機能を搭載する計画を発表したが、その意図するところは明らかだ。グーグルTVで視聴者が映画やゲームなどの有料コンテンツをダウンロードしたり、ショッピングをする際には、おのずと「帳合」が必要になる。これを確立できるかどうかがグーグルにとっての“最大のハードル”となるだろう。
ただし、そうした姿勢は一見すると、グーグルの企業風土に反するようにも映る。グーグルマップやストリートビュー、Gmail、アンドロイドOS、買収したユーチューブにしても、「なぜあれほどの資金と手間暇をかけて作ったものを無料で公開するのか」と常識的には不可解に思えることをやってきたのがグーグルという企業だ。そもそも、すべてのコンテンツは無料であるべきだという哲学からスタートした会社である。今後も広告モデルで稼げている間は世界のユーザーに向けた無料サービスを続けるだろう。少なくとも後続を断つまでは無邪気な“お人好し”を装っていく可能性がある。
もう一つの弱みは、逆説的だが、アンドロイドがオープンソースであることに由来する。世界中の人々が改良を加えられる強みは、一方でアップルのような首尾一貫した開発を行なうシステムに比べると予測不能かつ信頼性の欠如、という弱みになる。マイクロソフトに対してオープンソース陣営のリナックスが常に持っていた頼りなさと似ている、といえば分かりやすいかもしれない。アップルの強さが続くようなら、グーグルはどこかでアンドロイドを囲い込んで“マイクロソフト化”しなければならなくなるかもしれない。
いずれにせよ、アマゾンやアップルなどライバルとの決戦はこれからであり、決着がつくのはおそらく3~5年後だろう。
※週刊ポスト2011年1月21日号