大量の機密文書を含む、25万点のアメリカの外交公電を公表し続けている「ウィキリークス」。しかし、未だその実像はよく知られていない。創設者のジュリアン・アサンジ氏とは何者であり、ウィキリークスとはどのような組織なのか。
それは、報道や国家機密の在り方を今後どう変えていくのか。立ち上げ直後の2007年頃からウィキリークスの存在に注目し続けてきた、国際政治アナリストの菅原出氏が読み解く。
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ウィキリークスが発展していく中で、内部での不協和音も聞こえ始めた。2010年末にアメリカの外交公電を公開した時、アサンジ氏は今までとは少し違った手法を取り入れた。情報を一挙に公開するのではなく、小出しにしたのだ。情報を徐々に公開することで、ウィキリークスは世間の注目を長期的に集めることができる。「経営者的」な発想がアサンジ氏の頭の中に芽生えてきたのだろう。
こうした商業主義的な発想に対して、アサンジ氏の右腕である創設時からのメンバー、ダニエル・シュミット氏は猛烈に反発した。また、大手新聞社らとの協力体制についても、シュミット氏には契約内容が何も知らされてはいなかった。
「ガーディアンとはどのような取り決めをしたのか、教えろ」
怒り心頭に発したシュミット氏はこう言ってウィキリークスを辞めたとされる。彼は内部告発プロジェクト「オープンリークス」を独自に立ち上げ、ウィキリークスの内部を告発する暴露本を2011年中に出版する予定である。
こうした内紛的要素が今後どうなっていくかは定かではないが、ウィキリークスが国際政治の「プレーヤー」としての興味深い存在となったことは間違いない。アサンジ氏は国際政治でプレーするための一つの手法を確立したのである。
今後は世界各地でウィキリークスのような告発サイトが誕生するだろう。ウィキリークスには今、1日あたり30件もの内部情報が届くという。年間にすれば1万件のペースだ。つまり、彼らは持ち込まれる情報をさばききれていない。現在のところウィキリークスのスタンスは「反アメリカ」とはっきりしているから、そこにつながる情報が優先して公開されていく。
なので今後は、反ロシアや反中国など、アメリカ以外の政府に対抗するスタンスを明確にした別の内部告発サイトが現われるだろう。
政府や企業の側も防衛策を講じるであろうが、それでも内部告発をしようという人は出てくる。これまでも、そうした人々が内部情報を新聞やテレビ、雑誌などに提供するケースはたくさんあった。ただ、そこにインターネットという便利なツールが発明されたことにより、内部情報を容易に持ち込める環境とインフラが完成した。
※SAPIO2011年1月26日号