2011年シーズンをアスレチックス(以下ア軍)の一員として迎えることとなった松井秀喜。しかし、ア軍の本拠地、オークランド・アラメダ・カウンティ・コロシアムは、ファウルゾーンが広く、本塁打が出にくい「ピッチャーズ・パーク(投手有利の球場)」として有名だ。ア軍は完全試合を達成したダラス・ブレーデンを筆頭に、メジャー屈指の投手王国を築いているが、理由の一つが球場にある。松井は長打の出にくい球場でどう結果を残すかが焦点となる。
その点、ア軍のビーンGMはシビアに事を進めている。松井の獲得2日後に、ナショナルズからジョシュ・ウィリンハム外野手を獲得した。大リーグ研究家の福島良一氏はこう話す。
「彼はレフトを守る右打ち。松井は左投手を苦手とするので、投手が右なら松井、左ならウィリンハム、という使い分けをするために獲ったと考えられます。(ビリー)ビーンGMはデータ至上主義ですから、松井といえども、結果が思うように出なければシーズン中でもすぐ放出されてしまう。特にベテラン選手の見切りは早い」
これまでア軍にDHとして移籍してきたベテランスラッガーには、ここが選手生命の“終着駅”となっている前例がある。あるMLB関係者こう話す。
「ホワイトソックスでMVPを2度獲得しながら、度重なる故障などが原因で放出された当時38歳のフランク・トーマスは、わずか1年50万ドルで2006年にア軍に移籍し大活躍。その後ブルージェイズと2年1800万ドルで契約するなど見事にカムバックを果たしました。だが、その後もう一度ア軍に移籍した時には結果が出ず引退。同じく、野茂の女房役として有名だったマイク・ピアッツァも、ア軍のDHで選手人生を終えています」
長くプレーオフ進出から遠ざかっているビーンGMに、地元メディアは厳しい目を向けている。ビーンGMにとって、松井獲得は眼力がまだ衰えていないことを証明する格好の投資であり、2人は互いのクビをかけた運命共同体ともいえる。
ビーンGMから価値を再発見された36歳の松井が、「引退」の二文字を覆す反撃のシーズンを迎えるか、それとも引導を渡されるのか。正念場の1年となる。
※週刊ポスト2011年1月21日号