初代・團十郎から始まり、300年もの間歌舞伎を守ってきた市川宗家には、壮絶な歴史がある。例えば、海老蔵(33)の父・12代目團十郎(64)の出生にまつわるこんな話も。
いまから22年前、朝日新聞朝刊で連載された新聞小説が話題になった。1988年9月から1989年11月まで続いた宮尾登美子氏(84)の小説『きのね』(新潮文庫)だ。
小説は第2次世界大戦前より始まる。貧しい家に生まれた主人公の光乃は口入れ屋(職業紹介所)で歌舞伎役者の家の下働きの仕事を見つけ、住み込み家政婦として働くことになる。そこで出会ったのは、病弱で癇癪持ちの雪雄だった。光乃は雪雄に徐々に惹かれていき、雪雄の子を身ごもってしまう。病院に行くことも、人を呼ぶこともためらわれる“使用人”の思い。そして、光乃は痛みを堪え、もうろうとしながらも1人トイレで出産する。
「この作品はフィクションという形式をとっていますが、雪雄は11代團十郎を、光乃はその妻をモデルにしています。つまりいまの團十郎の両親のことを書いているんです。若干のフィクションや誇張はありますが、ほとんど事実だそうです。宮尾先生は相当の取材を重ねていて、トイレで生まれた赤ちゃんのへその緒を切りに来たお産婆さんにも取材しています。
当時、家政婦である千代と再婚したことは家柄を重んじる梨園にとってスキャンダルでした。それでも結婚を願ったのは誰でもない先代の團十郎さんです。当時、人気絶頂だった役者の妻として披露された千代さんがびっくりするほど地味な人だったため、宮尾先生は調べに調べてこの本を執筆したそうです」(歌舞伎関係者)
当時、小説が発表されても、市川宗家側はあくまで小説だからというスタンスを崩さず、静観していた。
※女性セブン2011年1月27日号