2010年は、第2次韓流ブームが吹き荒れた年だった。BIGBANG、超新星、SUPER JUNIORなど、韓国発のアイドルグループが次々にブレイク。少女時代、KARAなど女性アイドルグループも日本のヒットチャートを席巻したが、かつて、韓国にとっては日本の芸能界が憧れの存在であった。
日本が1970~80年代に「たのきんトリオ」などの登場でアイドル全盛期を迎えたのに対し、韓国では1996年、ようやく初のアイドルグループ「H.O.T.」がデビュー。男性5人組のH.O.T.はダンスポップを浸透させて爆発的に売れ、それまで大衆音楽といえばバラードや演歌のような歌謡曲が中心だった韓国の音楽業界は一変した。
しかし、このアイドルブームは続かなかった。『日本人の知らない韓流スターの真実』(文藝春秋刊)の共著者でフリーライターの菅野朋子さんがいう。
「第2、第3のH.O.T.を狙ってたくさんの芸能事務所がアイドルグループをデビューさせました。でも当時、タレントオーディションを行っていたのはテレビ局だけです。芸能事務所の権限は小さく、次のアイドルを発掘する力も、誕生させるノウハウももっていませんでした」
そこで韓国では、2000年代にはいると、芸能事務所が街角でのスカウトを本格化させるようになった。しかし、この手法もうまくはいかなかった。
「容姿だけでスカウトされ、即デビューする子の多くは、歌唱力や実力が足りないといわれ、人気が出ないまま、あっという間に消えてしまったのです。やはり、実力のある子を育てて売り出すしかないと芸能事務所は方針転換しました」(菅野さん)
ここで確立されたのが、韓国独自の“インキュベーティングシステム”というアイドル養成システムだった。これは芸能事務所が自らオーディションをしてスター候補を選抜し、練習生としてダンス、歌、演技など厳しいレッスンを課して自前で育て上げるやり方だ。
「レッスン代から車の送り迎えまで生活すべての経費を事務所が持ち、才能のある子を時間をかけて育て上げる。・インキュベーター・とは卵を孵化させる装置を意味します。まさにアイドルの卵を孵化、つまりデビューさせるまで芸能事務所が面倒を見るのです」(菅野さん)
地方出身者には寮を用意し、少年少女たちに共同生活をさせた。そして、アイドルを目指す彼・彼女らに一番に課されること、それは激しい“競争”だった。韓国の芸能事情に詳しいラジオDJの古家正亨さんはこう語る。
「まず練習生のオーディションに受かることだけでも何十倍という競争率です。しかも、練習生になっても必ずデビューできるわけではなく、歌やダンス、語学に秀でた練習生をさらに何段階も選抜してゆく。非常に厳しい競い合いが続くのです」
100人に投資してトップスターになるのは1人といわれるこの制度で成功した第一世代がBoA(24)だった。
さらに全員が練習生出身である東方神起が2003年に結成されると、大ブレイクし、第2のアイドル全盛時代に突入した。冬ソナをきっかけとした日本の韓流ブームも追い風となり、いつしか韓国でも芸能人は憧れの存在になっていった。BIGBANG、少女時代、SUPER JUNIOR…、昨年日本でブレイクした韓流アイドルのほとんどがこのインキュベーターシステム出身者だ。
※女性セブン2011年1月27日号