【書評】『公共事業が日本を救う』(藤井聡著/文春新書/872円)
評論家で、ノンフィクション作家でもある関川夏央氏は、同書の内容について、倹約政策の「みみっちい」効果より説得力のある提言だと解説する。
* * *
「コンクリートから人へ」――民主党の目玉政策である。耳に響きはよい。しかし、具体的にはどういうこと? 『公共事業が日本を救う』の著者・藤井聡は、土木計画学、交通工学を専門領域とする京大の若い教授である。
長らく公共事業天国といわれてきた。だが2000年代後半から、すでに日本の体質は変わっていた。1998年に15兆円だった公共事業費は、2010年には6兆円弱に過ぎない。対GDP比は3%。独1.5%、英2.1%より高いが、米3.0%と同等。仏3.7%より低く、韓国の半分だ。一方、社会保障関係費は15兆円から27.3兆円にふくらんだ。
日本の道路密度は、可住地面積当たりで世界最長だという。しかし、山がちで可住地は少ない。平たいヨーロッパと、そのまま比較するのはナンセンスだ。現実には車1万台あたりの高速道路延長は先進国中最低、全道路なら米の5.5分の1、仏の3分の1にとどまる。日本のインフラはまだまだ未熟なのだ。
2010年、国の借金は882兆円。国民ひとり当たりなら693万円で、総額はGDPの1.89倍。先日破綻したギリシャは1.15倍だったから、恐怖の数字だ。しかし日本の負債は、自国通貨による国内民間から借りた「内債」で、破産国のような外債は全体の6.1%にすぎない。内債は国内の誰かの債権(資産)になっているはずだから、収支はつぐなって日本は破綻しない。
「事業仕分け」も耳に響きがよかったが、その効果は「みみっちい」。思えば、寛政の改革以来、倹約政策は失敗と決まっている。いまこそ国債を惜しみなく発行して、産業インフラの質の向上のためにどんどん公共事業を行え、と著者はいう。
妥当な意見かどうか私には判断できないが、少なくとも、耳に響きのよい「魔語」が、結局とんでもない災難をもたらし、「生徒会」のような政権が二代つづくことの国家的リスクは、骨身にしみる。
※週刊ポスト2011年1月21日号