竹下正己弁護士の法律相談コーナー。今回は「業者に電話でしつこく商品を勧められ、『とにかく送る』といわれました」と、以下の質問が寄せられた。
【質問】
「どこか体の具合が悪いところはないですか」という電話がかかってきたので、ひざが悪いことを伝えたら、健康食品の説明を延々とされ、断わっても電話を切らせてくれず、「では、お試しコースをとりあえず送りますから」と一方的に切られました。実際に送られてきたらどうすればいいでしょうか。
【回答】
契約は、申し込みと承諾で成立します。ご質問の経緯ではあなたの承諾がないのはもちろんですが、そもそもこの電話も業者からのお試しの依頼であり、購入申し込みではありませんので、契約は成立していません。仮に「買ってください」という申し出があったとしても、「買います」という承諾の意思表示がないまま契約が成立するのは、常日頃取引のある業者同士が、普段取り扱っている商品について行なう取引の場合だけです。あなたの場合、これに当たらないことはいうまでもありません。従ってあなたには、品物を受け取る義務はありません。もちろん代金も支払う義務もありません。
電話で勧誘して物を売りつける商法を電話勧誘取引といい、特定商取引法により規制されています。電話勧誘取引では、勧誘を受けた側が郵便やファクシミリで申込書を送ったり、パソコンで申し込みのEメールを送ることで契約が成立しますが、業者は契約が成立する前に法律の定める一定の事項(商品の種類や代価のほか、クーリングオフができることなど)を書いた文書を交付する義務があります。顧客はこの文書をもらった日から起算して8日以内であれば、申し込みを撤回できます。
また、この法律では、売買の申し込みとともに商品を送った場合、14日以内に相手が承諾しないときには、業者はそれまでに引き取らないと、返却を請求できません。しかし、あとで面倒な関係に巻き込まれないためには、受け取らないのが一番です。業者がさらに取引を勧誘してくるようであれば、明確に断わってください。
特定商取引法では、電話勧誘取引業者について、契約を締結しない旨の意思を表明した者に対する勧誘を禁止しています。しつこい場合には、国民生活センターなどに相談してください。
※週刊ポスト2011年1月21日号