今後10年以内に朝鮮半島で起きる可能性がある最大の“事件”は何か。その筆頭は間違いなく北朝鮮の独裁者・金正日総書記の“死”だろう。「その時」彼の地では何が起きるのか。日米韓、そして中国はどう動くのか北朝鮮動向に精通する惠谷治氏が近未来をシミュレーションする。
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金正日総書記が死去した場合、緊急に決定しなければならないのは、遺体処理の問題である。金日成の遺体はロシアの技術によって永久保存され、平壌の錦繍山議事堂に安置されている。
金日成と同様に金正日の遺体保存を行なうのであれば、急遽モスクワから専門家を呼び寄せなければならない。その財政的余裕はあるのかといった問題でも、先軍政治派(党中央軍事委員会)と改革・開放派(国防委員会)の対立は深まるはずである。
葬儀委員会の序列などは双方が妥協し、内部対立は葬儀終了までは表面化しない可能性もあるが、いずれ決着をつけざるをえない。その時、キーマンとなるのは、核兵器の安全装置解除コードを知っている禹東則である。禹東則が先軍政治派について権力を維持するのか、あるいは改革・開放を目指して張成沢と手を結ぶのかによって、シナリオは大きく変わってくる。
その一方で、人民に敬愛されていた金日成の場合と異なり、金正日が死去した場合には、住民たちが溜まっている鬱憤を晴らす機会と捉え、保衛員(秘密警察員)をリンチするような事件が続発する可能性も考えられる。
社会秩序が乱れ始めると、堰を切ったように住民暴動が頻発する一方で、脱北者が急増することが考えられる。こうした混乱にすかさず対処するのは、中国人民解放軍なのか、米韓軍なのか。米韓軍が北進するとなれば、本誌で幾度か紹介してきた「作戦計画5029」の発動が予想されるが、拉致被害者救出のため、我が自衛隊も出動しなければならなくなるだろう。
いずれにせよ、「Xデー」に向けたカウントダウンは、もう始まっているのである。
※SAPIO2011年1月26 日号