菅首相は自分の都合の悪い情報や意見に、「聞く耳」を持てなくなっている。
「小沢一郎・元民主党代表排除」を政権の第一の目標に掲げたのは、側近たちからの情報を鵜呑みにしたことが大きかった。昨年暮れに大連立構想が浮上した際、菅首相と自民党の間の伝書鳩役で動いたのが寺田学・首相補佐官だったという。
長年、菅氏を支えてきたベテラン議員が憤る。
「総理は自民党との大連立の可能性をまだあきらめていない。参院選で懲りたはずの消費税増税を再び言い出したのもそのためだ。
その大連立の条件として、官邸には“小沢を切ってマニフェストを破棄すれば政策協議に応じる”との自民党サイドの意向なるものが伝わっていた。総理は寺田ら側近を自民党の執行部や首相経験者に接触させ、そういう報告を受けたという。
取り巻きたちはできるだけ長く権力の中枢にいたいから総理の喜ぶ情報しか上げないし、ワラをも掴みたい総理はその情報を信じ込もうとしている。だが、政権を倒したい自民党にすれば、民主党を分裂させるためならどんな空約束でもするだろう。要するに騙されているんだ」
周囲にイエスマンばかり置くのは、孤独な権力者に共通した病理でもある。菅首相は、都合の悪い情報に耳を塞ぐようになった。
ある省の副大臣は、思い当たるフシがあるという。昨年末の予算編成の際、菅首相は官邸に各省の政務三役を交互に呼んで政策や予算の方向性を協議した。その席でのことだ。
「小1時間ほど総理がまだ納得していない政策について説明をしたが、その後、総理はピント外れな質問をしてきた。同席者はみんな、『えッ、今まで説明したことを全然理解していなかったのか』と驚いた表情でした。菅さんは本来は頭の回転が速く、理解できないはずのない話なのに……」
社会心理学者の碓井真史・新潟青陵大学大学院教授はこう分析する。
「総理は巨大な権限を持つと思っていたが、どうもうまくいかない。そこから孤立感や無力感が溜まっていく。だから周りをイエスマンと彼らが進言する都合のいい情報で固めるのです。すると、自分が王様になれるから心の疲れが取れる。他から見ると裸の王様ですが、もしそこを指摘するような人がいても、結局はイラついて遠ざけてしまう」
だからといって政策まで頭に入らないのは、首相としての最低限の能力を失いかけている危険信号だ。
※週刊ポスト2011年1月28日号