冷戦終結後、世界で唯一の超大国であったアメリカが、2011年からの10年では、ついにその地位を失うことになるかもしれない。瀕死の超大国がもがき苦しみ、その先には「次なる戦争」が待ち受けていると国際ジャーナリストの落合信彦氏は指摘する。
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「次の戦争」としてターゲットとなるのはイランである可能性が高いだろう。大統領のアフマディネジャドはアメリカの重要なパートナーであるイスラエルを「中東の地図から抹消されるべきだ」と発言する人物である。
もちろん、いきなりアメリカがイランに攻撃を仕掛けるとは考えにくい。というのも、私は複数のイスラエル政府関係者から、ブッシュ政権下の2006年に、イスラエル側が非公式にアメリカに対して「イラン空爆」を求めた時の経緯を聞いている。要請を受けたのは、当時副大統領で、政権内でも一番のタカ派とされるディック・チェイニーであった。
しかし、この時のチェイニーの答えは「NO」だった。チェイニーはイランを爆撃するイスラエル空軍に対する空中給油の要求にさえも首を縦に振らなかった。
もちろん、当時イラクとアフガニスタンだけで手一杯だったアメリカは、これ以上戦線を拡大することなどできなかったことは確かだが、理由はもうひとつ考えられる。
アメリカの戦争にはほぼ必ず「大義名分」が伴っている。つまり“先制攻撃”は相手がしてくるのである。そのことがアメリカ国民の怒りを喚起し、星条旗への忠誠心を掻き立て、“正義の報復”のための団結へと導く。「9.11テロ」はまさにそうだった。
ベトナムのケースで言えば、後にペンタゴン・ペーパーなどによって明らかにされたように、トンキン湾事件で相手の先制攻撃が捏造された。
アフマディネジャドが、シャハブ・ミサイルをイスラエルやヨーロッパに向かって発射すれば、アメリカにとっては十分すぎる大義名分となる。イランはそれを主体的にやるかもしれないし、何らかのかたちでアメリカ側がイランの先制攻撃を誘発させるかもしれない。
少なくとも言えるのは、イランとの戦争はカネになるということだ。兵器メーカーからすれば最新鋭のMD(ミサイル防衛)をはじめ、新兵器の“実験”をする格好のチャンスとなる。そういった新たな戦争が引き起こされる可能性が低くないことを、我々は歴史から学んでおかなくてはならない。
※SAPIO2011年1月26日号